2024年4月25日(木)

ザ・移動革命

2020年10月23日

米国勢に勝てない2つの理由

 今回の発表にあたりCruiseのCTOが自ら解説する動画が公開されたが、それによると彼が自動運転の開発に取り組み始めたのは7年前と言っている。同社の設立が2013年10月だから設立当初から取り組んできたということだろう。

 7年間というと長いようでもあり短いようでもある。日本の大手自動車メーカーや大手サプライヤーはそれ以上前から自動運転技術に取り組んでいるはずだし、大学や研究機関にも7年以上研究開発してきたところがあるはずだ。

 ではなぜここまでの差がついてしまったのか。私は2つの理由があると考えている。

 1つはロボタクシーを本気で実用化しようとする勢力が日本国内から現れにくい事情だ。日本の自動車業界は自動運転技術をクルマの安全性向上のためのソリューションと位置付けている。自動車メーカーのCMを見ればわかることだが、自動車メーカーの考える自動運転は基本的に“ドライバーのアシスト”を主軸に置いており、完全無人の自動運転を目指しているわけではない。

 一方、タクシーやハイヤーなどの業界はドライバーや配車センターなどを抱えているため、彼らの雇用が失われかねないロボタクシーにはコミットしにくい。となると異業種かベンチャーでなければロボタクシーに本気になれないことになるが、研究開発系の大学発ベンチャーは複数存在するもの、破壊的イノベーション(Disruption)を支えるエコシステムが備わっていないことから、実サービス化まで持って行ける企業がなかなか排出されないのだ。

 もう1つは公道走行試験を行うことが極めて難しいことだ。数年前にシリコンバレーを訪問した際はグーグルの自動運転車が普通に街中を走っていたことに驚いたが、国内では自動車メーカーの本社所在地であっても自動運転車が普通に走っている光景を見ることはない。日本では道路交通は警察庁、車両規制は国土交通省(地域では運輸局)、道路管理は道路の種類によって国、都道府県、市町村と管理責任者がバラバラに分かれている。そのため地域限定で包括的な公道走行許可を得ることが容易ではないのだ。第二次安倍政権において様々な規制緩和が行われたことは事実だが、自動運転車が普段から走り回っているシリコンバレーのような状況とは程遠い。

 絶対に事故を起こしてはならないという社会的風潮があるから規制当局としても簡単に公道走行許可を出せないのかもしれないが、完璧でないと許してもらえない状況では技術者は委縮してしまい思いっきり挑戦ができない。日本人の律義さは素晴らしいが、自動運転のような分野ではその律義さがあだになっているのかもしれない。

 アメリカのカリフォルニア州などでは自動運転車の公道走行許可を与える代わりに、危険を回避するためにアシストドライバーが介入した際にはその状況も含めて運輸局に報告することが義務付けられている。自動運転車のルール整備に活かしていくためだ。技術開発→公道走行試験→実用化に向けたルール整備といったサイクルがしっかりと構築されているからこそ、カリフォルニア州では次々とモビリティ分野のイノベーションが起きているのだ。

公道を試験走行中のグーグル/Waymoの自動運転車(Michael Vi/gettyimages)

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