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2020年12月31日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 おそらく、シネマ・クレールに残ってほしいと思う多くの人たちは、ここで自分なりに大きな刺激を受ける映画に出会ったのだろう。だから、それぞれの人にとって、特別な映画館になっているのではないか。

 特段、肩肘を張って映画館を運営しているわけではないと言う浜田さんが、絶対に譲らないルールがひとつだけある。シネコンでは当たり前に許されている客席での飲食を禁止しているのだ。

 「映画は集中して観るべきものです。どうしても映像で表現できないことを言葉で補うのが映画だと私は思っています」

 映像で食事時のシーンがあるとする。食卓の上に置かれた料理が映るだけで、食事をしている人の社会的な地位を表現できる。「そういうところまで気を配りながら観ていくと映画はますます面白くなります」と浜田さんは言う。

 そんな浜田さんの映画に対する思い入れが、シネコン全盛の中でも「シネマ・クレール」が支持を集め、存続してきた理由かもしれない。

岡山城からほど近い場所にあるシネマ・クレール。取材に訪れた8月中旬も暑い中、熱心なファンが来館していた

文化としての映画

 最近はネット配信サービスで、映画をパソコンやテレビ画面で観る人が増えた。これもミニシアターにとっては脅威ではないのかと聞くと、浜田さんは意に介さない。

 「映画は非日常的な空間で観るから楽しいのです。どんなに絵画を忠実に再現した美術本が出ても、人々は本物を観に美術館に行きます。映画も同じです」

 クラウド・ファンディングで1000万円が集まったからといって、それで経営が安泰というわけではない。新型コロナが終息して、普通に映画館を訪れる日常が戻らなければ、再び危機に直面する。フランスでは映画を文化として捉え、教育の対象として扱われている。

 日本ではまだまだ文化としては捉えられず、娯楽としてしか位置付けられていない。だから、街に映画館を残すために行政が助成するという発想にもならない。

 欧州のちょっとした街に行けば、オペラハウスがあり、コンサートホールがあり、美術館がある。もちろん映画館もある。そうした生活に彩りを与える文化の場には多くの助成金や寄付金が拠出されている。

 「シネマ・クレール」を巡る今回の取り組みは、文化の拠点は自分たちの手で守る、というカルチャーが日本にも芽生えるひとつのきっかけになるかもしれない。

写真=湯澤 毅

  
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◆Wedge2020年10月号より

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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