③環境政策と産業政策の両立を
謳う罠に陥るな
第三は、CO2削減と再エネなど環境関連産業の発展を実現するにあたって、多額の国民負担を強いる歴史を繰り返さないということだ。菅首相は所信表明において、日本が世界のグリーン産業を牽引し、経済と環境の好循環をつくりだすとした。
ここで留意すべきことは、固定価格買収制度(FIT:再エネによる電力供給を20年間等の長期固定価格で電力会社に買い取ることを政府が義務づけた)の導入の際、説明された、「FITにより、短期的に再エネ導入に伴う国民負担が増加するが、将来的には国内市場の拡大が国内企業の国際競争力向上に貢献することで、国民負担は回収できる」とする言説である。
しかし、実際にはFITで最も導入が進んだ太陽光発電は、高すぎる買取価格によって短期的には国内メーカーの収益を改善させたが、製造技術の汎用化によって競争力を持つ中国勢との価格競争に敗れて低迷した。つまり、日本のFITにおいては、環境政策と産業政策は両立せず、再エネへの補助として電気料金に加算されるFIT賦課金は累積数十兆円にのぼり、莫大な国民負担が残されたのである。
もちろん、環境と経済の好循環の可能性も僅かにはある。ただ、それがもたらされるためには、第一に国民負担の少ない対策であること、第二に莫大なCO2削減ポテンシャルを有すること、第三に長期的に国際的な産業競争力を獲得可能なことの三点が必要不可欠である。
その隘路に位置づけられる技術開発の一つとして、浮体式洋上風力発電を挙げたい。筆者らは、地理情報システム(GIS)を用いて、19年4月に実施された再エネ海域利用法が定める促進区域の指定要件を満たす、洋上風力ポテンシャルを評価したところ、計3億2200万kWに達した。そのうち着床式は約1億3400万kW、浮体式は約1億8800万kWとなった※3。遠浅が続く欧州の北海等と異なり、日本では離岸距離に応じて水深が深くなる傾向にあり、陸地から離れるほど着床式の適地が減少していく。
このポテンシャル評価では、漁業権や景観などを考慮しておらず、実際に導入可能な量はより小さい。例えば、景観に関しては、洋上風力が海岸からどの程度遠くに建設されるのか、離岸距離が重要となる。
洋上風力導入量が世界一である英国では、入札の第1回目(Round1)では、離岸距離と無関係に洋上風力が設置可能だったが、景観・生態系リスク※4などの問題から第2回目(Round2)では8-13km以遠に、第3回目(Round3)では22.2km(12海里)以遠でなければ設置できなくなっている。
もちろん、日本では洋上風力の導入はまだ黎明期に過ぎず、洋上風力が景観に与える影響を、日本ではどのように考慮するべきか(日本人がどのように認知するのか)は、今後の研究課題である。他方、2050年における潜在的な導入量を検討する場合、ある一定の基準を引くことが現実的である。
仮に、日本でも、漁業権が設定されていない海域に、社会的な受容性を重視して、離岸距離を10km以遠に設置する場合、設置可能な洋上風力の設備容量は約4330万kW(内訳は、着床式約530万kWと浮体式約3780万kW)あり、設置を優先して同5km以遠とする場合は約1億1360万kW(同、着床式約2270万kWと浮体式約9090万kW)となる※5。
実際の導入にあたっては、立地地域毎の利害関係者での合意状況など、個別に受容性の程度は異なり、導入が進むにつれて社会的な洋上風力への受容性等も変化すると想定される。そこで、筆者らは、任意に条件を変更することで、導入可能な設備容量がどのように変化するか、webブラウザ上で確認できる「洋上風力導入量GIS評価ツール」を公開している。
いずれにせよ、前述した着床式と浮体式の導入可能な量をみても、日本では、浮体式は着床式に比べて、遙かに大きいことがわかる。したがって、導入に際しては、設置地域の受容性を高めることも考慮すれば、浮体式の技術開発が重要である。
逆に言えば、欧州の主流である着床式ではなく、日本には実証段階の浮体式の技術開発に注目し、環境・産業政策の両立を目指す道もある。その際には、前述の三点、特に国民負担を抑制することを重視し、環境と経済の両立を謳う罠に陥らないことが肝要である。
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