2024年12月7日(土)

Wedge REPORT

2020年12月1日

 11月初旬、初冠雪に覆われた標高約900㍍の山間の空に、地下から噴き出し、発電タービンを回した蒸気がもうもうと立ち昇る。敷地面積約15万平方㌔メートル(東京ドーム約3個分)、発電出力4万6199kW(㌔ワット)を誇る山葵沢地熱発電所(秋田県湯沢市)は、2019年5月に運転を開始した。国内最大規模となる同発電所の発電量は、湯沢市1万8千世帯をゆうに超える、約9万世帯分もの電力を賄うことができるという。

山葵沢地熱発電所(秋田県湯沢市)。長さ2.4kmの還元井が山地斜面を這い、発電に用いた蒸気・熱水を地下に戻している (WEDGE)

 だが、同発電所が稼働するまで、国内の大規模地熱発電所(1万kW以上)の建設は、1996年に運転を開始した滝上発電所(大分県九重町)を最後に、実に23年もの空白期間があった。日本の地熱発電の〝根詰まり〟はなぜ起きているのか。

24時間発電可能な
「純国産」再生エネルギー

 地熱発電の仕組みはこうだ。深度約2000㍍の地下断層に生じた亀裂(割れ目)に、雨水や河川水が流入する。この地下水がさらに深い位置にあるマグマによって熱せられ、蒸気・熱水となることで、地熱発電の条件が整う。このような自然発生的に形成された地下の形状を「地熱貯留層」と呼ぶ。地熱発電ではまず、「生産井(せいさんせい)」と呼ばれる井戸を掘削し、地熱貯留層から蒸気・熱水を採取する。約200~300℃の熱水は地表付近で圧力が下がると蒸気へと膨張変化し、発電タービンを回す。発電に用いた蒸気や熱水を、「還元井(かんげんせい)」を通して地下の地熱貯留層へ戻すことで、半永久的に発電することが可能となる(下図参照)。

(出所)JOGMEC資料を基に、ウェッジ作成

 化石燃料を用いない地熱発電は他の再生可能エネルギーと同様、二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない。太陽光・風力発電と比べ、24時間安定的に発電可能な点も魅力的だ。また、石炭、石油、天然ガス、ウランなど、日本はエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っているが、地熱発電は、資源から発電設備に至るまで「純国産」エネルギーだ。さらに、地下の火山活動が活発な日本は、熱資源だけをみれば、米国、インドネシアに次ぐ、世界第三位(2347万kW)の資源を有するとされる「地熱大国」だ。

 地熱発電は産業政策という意味でも効果が大きい。地熱発電用タービン分野では、三菱パワー、東芝、富士電機の国内3社で、世界シェアの実に約7割を占める。三菱パワーエンジニアリング本部長崎プラント技術部の齊藤象二郎主幹技師は「現地での試験結果に基づき、蒸気や熱水の水質・圧力・流量に合わせ、構成部品ひとつひとつを選定していく。経済性と安全性を考慮しつつ、機器をオーダーメイドする技術力が求められるため、コモディティー(汎用品)化しにくい」と語る。

山葵沢地熱発電所の発電用タービン(WEDGE)

新着記事

»もっと見る