2024年12月3日(火)

World Energy Watch

2020年8月18日

 経済産業大臣が石炭火力削減を発表して以降、石炭火力に関する様々な意見が出されている。マスコミの中には「二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電所をなくしていく。そんな国際的な動きを、日本もようやく追いかけるように見える。1~3月期OECD諸国では石炭火力の割合が4%ほど減り、ほぼ同じだけ再エネが伸びた。視野を広くし、世界の動向に敏感になるべきだ。自国の都合を言い訳に脱石炭を怠れば、ガラパゴス化してしまう」との社説を掲載する新聞も出てきたが、大きな誤解があるようだ。

(cbpix/gettyimages)

市場の力だけで石炭火力発電が減る欧米

 石炭火力発電所をなくしているのは、米国と欧州の西側の国だけで進んでいる動きだ。国際的な動きとしている社説は間違いだ。視野を広くし、世界の動向に敏感になれば、石炭火力削減が進んでいるのは一部の地域だけと気が付くはずだ。

 さらに、石炭火力削減が進んでいる米国とEUの状況をよく見れば、市場の力で石炭火力が減っているだけだと分かる。石炭火力削減は世界全体の動きではないので日本がガラパゴス化する心配はない。多くの国が、エネルギー政策では温暖化以外にも、安全保障、経済性も重要だと考えている結果、世界の石炭火力の発電量は今後も伸びていくと予想されている。

 今年前半に再エネ比率が伸びているのは、新型コロナの影響で電力需要量が大きく落ち込む中で、需要量に合わせて出力を調整できない再エネの特徴により再エネ比率が増えているだけのことだ。英国では需要が落ち込む中で出力制御対象外の小型再エネからの発電量により供給過多となり停電する可能性も出たほどだ。電気は供給が不足しても、余っても停電してしまう。供給量を常に需要量に合わせなければいけない特性を持っているので、需要減に合わせて出力を落とすのは火力の役割になる。

 EUと米国では石炭火力からの発電量が減少している。両地域で事情は異なるが、共通している大きな理由は、競争力がなくなった老朽化した石炭火力発電所の閉鎖が続いていることだ。EUが温暖化対策として石炭火力発電所を閉鎖すると言えば、大変なことを行っているようだが、実態は温暖化よりも経済性重視の結果起こったことに過ぎず、二酸化炭素削減は後追いでついてきたように見える。

 EUと同様に石炭火力の発電量の落ち込みが続く米国では、温暖化問題に関心がないトランプ大統領が石炭復活に力を入れたが、石炭火力発電量は大きく減少した。政策支援でも変えられなかった市場の力だ。

増える石炭火力からの発電量

 世界の石炭生産量は、1973年のオイルショック以降ほぼ一貫して成長を続けてきた。原油価格の急上昇により、石炭が価格競争力を付けたことがその背景にある。原油の価格は世界のどの地域でも大きく異なることはないが、石炭の価格は地域により大きく異なる。それは、採掘条件が地域により異なり、高コストの石炭があるためだ。

 日本でも1960年頃に年産5000万トンを超えた生産量は、いまはほぼゼロになった。地下数百メートルから1000メートルにある薄い炭層を掘るためのコストが高く、国内炭価格は豪州などからの輸入炭の数倍になった。国産エネルギーとして維持する努力にもかかわらず生産はなくなった。

 日本だけではなく、欧州の多くの国でも地下深く掘る高コストの炭鉱が多くあった。英国、フランス、スペイン、ノルウェー、ドイツでは国内炭の生産量は減少を続け、欧州西側諸国ではドイツの褐炭を除き石炭生産はほぼなくなった。

 一方、世界の需要を満たすため採炭条件に恵まれコストが安い国では生産量が増え、国内炭の生産量が落ち込んだ消費国に輸出を行うようになった。豪州、インドネシア、コロンビア、ロシアなどだ。

 

 図‐1の通り、欧州では生産量が落ち込んでいるものの大きな国内需要を持つ中国と大半の輸出国では生産量が飛躍的に伸びた。オイルショック時の世界の石炭生産30億トンは、いま80億トン近くに達した。

 中国では数年前から大気汚染が大きな社会問題となり、その元凶の一つとして、石炭の使用があげられ、石炭消費量の抑制が行われるようになった(『凍える中国から学ぶべきことは? 強権的ではなく理性的な政策』)。その結果、世界の石炭生産量も2016年に落ち込むが、翌年からは生産は再び増加に転じた。

 これからも世界の石炭生産量は伸びると米エネルギー省は予想している。途上国を中心に石炭火力発電所からの発電量が伸びるためだ。世界の石炭火力発電量予測は図‐2の通りであり、2050年まで石炭消費量も年率0.4%の成長が予測されている。

 当面石炭が相対的に価格競争力を持つため、電力需要量が増加する途上国は石炭に依存せざるを得ない。ただ、世界の電力需要量は大きく伸びることから、石炭火力の占める比率は今の35%から2050年には22%に低下すると米エネルギー省は予測している。世界の動向は石炭火力増なのだ。しかし、採炭コストに恵まれ石炭輸出国の米国でも石炭生産量は大きく落ち込んでいる。なぜだろうか。


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