国、自治体、事業者の役割
今こそ、「地熱戦略」を描け
これらの課題を乗り越えるためには、国、自治体、開発事業者がそれぞれの役割を果たしていく必要がある。
国の果たすべき役割について、前出の海江田会長は、地熱開発における法律上の不備をこう指摘する。
「石油や石炭、レアメタル(希少鉱物)等の地下資源には鉱業法により採掘者に権利が保証されるが、地熱開発には適用されない。苦労して地熱貯留層を掘り当て、発電所を建設しても、隣の土地から斜め掘りで同じ貯留層に井戸を掘られる懸念もある。また、坑井掘削は温泉法、環境アセスメントは環境影響評価法、発電所建設は高圧ガス保安法など、各法律ごとに手続きが分かれていることも、開発期間を延ばす要因となっている。国立・国定公園内では、認可手続きがさらに煩雑となる。地熱発電普及のためには、開発に関する体系的な法律を制定すべきだ」
同時並行で、開発事業者には、地元の温泉事業者との丁寧なコミュニケーションが求められる。冒頭で紹介した山葵沢発電所を運営する湯沢地熱(秋田県湯沢市)の大樂良二取締役社長は「調査の段階から運転を継続する今に至るまで、毎月欠かさず、15の地元源泉所有事業者ごとに水質調査を実施し、結果をフィードバックしている。日々の安心材料を与え続けることも我々の責務だと感じている」と述べる。
開発事業者と地元住民との関係構築を、自治体が支援することも有効だ。湯沢市では『地熱のまち〝ゆざわ〟』をスローガンに、山葵沢発電所を含めた2つの発電所が稼働し、3つの地域で地熱資源開発調査を実施しているが、案件ごとに「地熱資源活用協議会」を定期的に開催している。協議会では湯沢市が中立的な立場として、外部有識者を招致し、開発事業者と地元住民間の対話や理解を促す。また、市民を対象に、地熱に関する講演会や発電所の見学会も積極的に実施している。
また、一橋大学イノベーション研究センターの青島矢一教授は「開発コストの『見える化』が必要だ」と語る。地熱開発では掘削調査への補助金や再エネの固定価格買取制度(FIT)など公的支援も多い。青島教授は「支援ありきのコスト構造になっているのではないか。費用の内訳を明らかにすることで、国が標準化し低コスト化を図り、新規事業者の参入を促すなどの効果がある」とする。地熱発電を開発する側にも課題はある。取材では、複数の地熱開発事業者に調査、開発、運転に関するコストを問い合わせたが、いずれも「営業機密であり、非開示」とし、ブラックボックスになっている。
資源の乏しい日本にも、地中深くには大きな可能性が眠っている。国が大きなビジョンを示し、山葵沢のような大規模地熱発電の成功事例を一つずつ増やしていく。点を面として広げていく地熱戦略が今、求められている。
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