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2020年11月24日

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安井 至 (やすい・いたる)

東京大学名誉教授

東京大学名誉教授。専門は環境科学、無機材料化学。1945年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、同生産技術研究所で講師等を歴任し、教授に。58歳で辞職。国連大学副学長、独立行政法人製品評価技術基盤機構理事長等を歴任。
 

    イラストレーション=加納徳博

 菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量と吸収量を2050年にプラスマイナスゼロとする目標を表明した。これまで日本政府の政策は、地球温暖化対策と経済成長のバランスをどのようにして取るのか、不明確であることが多かったが、今回、明確な方針が示されたことは大きく評価できる。

 これまでの日本政府の地球温暖化対策のスタンスを振り返る上で、まず挙げられるのは、1997年の京都議定書である。この規制で日本には、90年比で2008~12年に6%の温室効果ガスの排出削減が義務付けられた。日本はかろうじてこの目標を達成することができたものの、途上国に対して削減を義務化しなかった同議定書を不服として、日本は、次の第二約束期間(13年~20年)には不参加を表明した。

パリ協定への
反応が鈍い日本

 日本はその後の15年、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定には参加した。パリ協定は、各国に自主的な取り組みを促すアプローチが模索・採用されたものであり、実はこの手法は、協定の合意に至るまでの国際交渉において日本が提唱したものである。それにもかかわらず、日本流の経済優先が根本思想として強く影響したためか、日本は地球温暖化対策に積極的な対応をとってきたとは言えなかった。

 日本全体のCO2排出量は、14年度の実績を100とすると、18年度は90%にすら達しておらず、例えば、80%を下回るレベルまで削減したドイツ、フランスなどと比較するとほとんど進展していない。10月18日付日本経済新聞によると、世界ではCO2排出量削減に熱心な企業の株価は上昇しているが、日本企業は、その仲間に入っていない。したがって、日本の平均株価の国際的な評価も低くなって当然と言える状況である。

 日本だけでなく、トランプ大統領がパリ協定から離脱を宣言してしまったアメリカの企業の株価も、欧州の同種の企業よりも低い水準にとどまっている。もはや、CO2削減が、企業の生存策として最重要課題になっているのである。
 なぜ日本および日本企業は、パリ協定に対して反応が鈍いのだろうか。その答えは、非常に簡単で、日本政府の積極的対応が見えなかった中で、方針が出るのを待っていたからであろう。ただ、日本政府の方針を待っているばかりでは世界から遅れる、という危機意識が日本企業には希薄だと言わざるを得ない。

 この背景には二つの要因がある。一つには、根本的にパリ協定の原文を自分で読んだことのある日本人がほとんどゼロであること。もう一つはもし英文を読んだとしても、パリ協定の基本的な概念である「Climate Justice(気候正義)」の真の意味を理解できる宗教的背景のある人が少ないことが挙げられる。その結果、パリ協定に記載されている「目標」の理解を間違えていることが、同協定への国民的な取り組みを遅らせた原因だろう。

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