2022年8月12日(金)

WEDGE REPORT

2020年11月24日

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安井 至 (やすい・いたる)

東京大学名誉教授

東京大学名誉教授。専門は環境科学、無機材料化学。1945年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、同生産技術研究所で講師等を歴任し、教授に。58歳で辞職。国連大学副学長、独立行政法人製品評価技術基盤機構理事長等を歴任。
 

 この会議の最大の成果は、参加した国のうち、77カ国が「50年でのNet Zero Emission(CO2排出量ほぼゼロ)を実現する」と表明したということである。冒頭の菅首相の意向表明によって、日本もやっとそのレベルに追いついたことになる。つまり、日本および日本企業への評価を高める第一段階をクリアしたことであり、歓迎すべき状況である。しかし、心配なのは、このような世界的な情勢を知る日本の実業界の幹部が少ないことだろう。菅首相の発言に対して、大々的に反発する勢力がどのくらい出るのか、しばらく様子を見守りたい。

 これからわれわれ日本人は、どのようにして菅首相が表明した「Goal」に向かえばいいのか。日本は島国である。それゆえに日本人はともすると、島国だけで生きていると思っている傾向がある。だが、われわれがエネルギーを生み出す方法は限られている。現時点で日本が自前でエネルギーを生み出す方法の中でまず活用できるのは、再生可能エネルギー、すなわち、太陽光発電、風力発電、地熱発電などである。

 しかし、難点がいくつもある。再エネは「気まぐれ(自然条件に左右される)」であり「貯蔵困難」ということである。しかも、これらに対応しようとすれば、電池の導入が必須であり、かなり「高額な出費」が必要になる。しかし、地球温暖化に対応していくためには、これらは、受け入れざるを得ない。再エネに加えて、国民の同意を条件として原子力エネルギーにも依存することが必須になる。

 まず、このような考察が事実だと認識することが、国民にとって、重要な義務である。その上で必要なのが、こうした技術にとどまらず、「Goal」に向かっていく姿勢であり、それを続けることにより、日本や世界にイノベーションをもたらすであろう。

 イノベーションは「技術革新」と言われることが多い。しかし、それは一側面でしかない。イノベーションの父と言われた経済学者のジョセフ・シュンペーターはそれを「新結合」という言葉で表現した。これは「技術」と「技術」の「結合」という意味ではない。社会は人の集合体であり、イノベーションは「人」と「人」の結合をもたらし、社会を変えるものだ。新たな技術があっても、それがなければイノベーションではない。一次エネルギーに乏しいわれわれ日本人こそ、世界の誰よりそれを理解しなければならない。

Wedge12月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■脱炭素とエネルギー  日本の突破口を示そう
PART 1       パリ協定を理解し脱炭素社会へのイノベーションを起こそう          
DATA            データから読み解く資源小国・日本のエネルギー事情        
PART 2         電力自由化という美名の陰で高まる“安定供給リスク”         
PART 3         温暖化やコロナで広がる懐疑論  深まる溝を埋めるには 
PART 4       数値目標至上主義をやめ独・英の試行錯誤を謙虚に学べ   
COLUMN       進まぬ日本の地熱発電 〝根詰まり〟解消への道筋は   
INTERVIEW  小説『マグマ』の著者が語る 「地熱」に食らいつく危機感をもて  
INTERVIEW  地熱発電分野のブレークスルー  日本でEGS技術の確立を 
PART 5         電力だけでは実現しない  脱炭素社会に必要な三つの視点  
PART 6       「脱炭素」へのたしかな道  再エネと原子力は〝共存共栄〟できる         

  
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◆Wedge2020年12月号より

 

 

 

 

 

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