2023年1月30日(月)

WEDGE REPORT

2020年12月14日

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朝野賢司 (あさの・けんじ)

一橋大学イノベーション研究センター特任講師

京都大学大学院にて地球環境学博士号を取得。産業技術総合研究所を経て、電力中央研究所に入所。17年より社会経済研究所上席研究員と現職を兼任。

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永井雄宇 (ながい・ゆう)

電力中央研究所社会経済研究所主任研究員

米ジョージア工科大学機械工学科卒業、オーストリア・ウィーン工科大学大学院にて工学博士号を取得。国際応用システム分析研究所を経て、2013年より現職。

 

 

[執筆記事]

 これをみると、工場など産業部門のCO2排出量は3億7452万㌧であり、④の30年度CO2排出目標である4億100万㌧を既に達成していることが分かる。同様に、オフィスビルや、サービス業などの業務部門も1億7200万㌧と、30年度目標の1億6800万㌧をほぼ達成している。すなわち、産業・業務部門はその利用構造が現状と変わらなくても、電力の低炭素化により、目標達成がほぼ可能ということだ。

 しかし、電力の低炭素化をどれだけ進めても、エネルギー利用構造が現状のままでは、ネットゼロには近づかない。③の自動車、鉄道、航空機などの運輸部門のCO2排出量は2億917万㌧、家庭部門は1億4868万㌧であり、30年度目標値に到達しない。運輸部門に至っては、18年度実績値からほとんど削減量が変わらない。

 さらに極端な想定として、電力の脱炭素化、すなわち、電力のすべてがCO2を排出しない電源から供給される場合を試算したのが⑤の棒グラフである。日本全体のCO2排出量は合計で5億5400万㌧までしか削減できない。部門別のCO2排出量をみると、運輸部門は2億268万㌧とほぼ減少せず、家庭部門は半分以上削減されるものの5221万㌧の排出量が残る。

 つまり、エネルギー全体の低炭素化には、省エネ(高効率化)を進めるとともに、例えば、運輸では内燃機関車、家庭では灯油暖房機器やガス給湯機器といった従来型機器ではなく、使う際にCO2を排出しない(減少する)機器の選択を促す政策が重要である。

 その実現には「ロックイン問題」という難題を克服する必要がある。ロックインとは、製品・サービス等が一度市場での優位性を獲得すると、長期間固定化されることを意味する※1

 欧米諸国では、ロックイン問題の解決を目指した政策が実施されている。例えば19年10月、50年までに「ネットゼロ」を掲げたイギリスでは、政府諮問機関による「暖房等の熱源について、遅くとも25年までに、新築住宅のガス網への接続を止めて、ヒートポンプ等の低炭素熱源を利用する必要がある」とする勧告に基づく建築規制強化案が提示されている。

 同様にアメリカでも、20年から条例により新築住宅で燃焼機器の採用を禁止したカリフォルニア州バークレー市をはじめとして、約20の地方自治体で、燃焼機器から電気式暖房・給湯機器へ代替する際の導入補助金など、エンドユース機器の低炭素化を促す政策が導入されている※2

 このように各国のネットゼロビジョンが30年後を射程とする中で、足元の20年代にエンドユース機器の導入が急ぎ進められている理由は、転換への道のりが楽観視できないからである。確かに、機器寿命を契機とすれば、エンドユース機器は数年~十年程度での低炭素化が可能である。しかし、例えば集合住宅における家庭用給湯器は設置スペース等の制約があり、建物寿命と同じく転換に数十年のサイクルを要すると考えるほうが現実的である。

②30年の排出目標の達成は
 効率性を重視せよ

 第二は、30年度の細かな電源構成の目標値を必達目標としてこだわるのではなく、排出目標の効率的な達成を目標とすべきということである。前述のように、第五次エネルギー基本計画では、LNG、石炭火力、再エネ、原子力で別々に細かく電源構成比が示されている。

 同計画に記載された「非効率石炭のフェードアウト」を議論する資源エネルギー庁の石炭火力検討ワーキンググループでは、電源構成からさらに踏み込み発電効率までも「必達」とすることに議論が集中している。エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)によって、既に設定している火力発電の総合的な発電効率目標に加えて、石炭に特化した発電効率目標を設定するという案である。

 確かに、電力の低炭素化によって、各部門の排出量は低下する。しかし、自由化された電力市場の中において、LNGと石炭火力の構成比を「必達」とすることや、発電効率を「必達」とすることは、過剰な政府介入であり、いま一度再考すべきである。

 電力の脱炭素化だけでは、ネットゼロへの道のりは、まだ半分にすぎない。重要なことは、日本全体のCO2排出量をコントロールすることである。すなわち、電力のみならず全ての排出源に対して、費用対効果の優れた排出削減対策を順次実施していくという、効率性の考え方に立脚すべきである。


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