2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月18日

 ベトナム共産党第13回総会が、1月25日に開幕し2月2日に閉幕した。最大の焦点であった書記長人事は、グエン・フー・チョン書記長(国家主席を兼任)が、異例の3期目続投ということに決まった。党規では、書記長の任期を連続2期10年までとしており、南北統一以来初となる異例の措置である。

Benoît Ricoine / iStock / Getty Images Plus

 過去5年間、ベトナムは政治的安定を維持し、7%前後の高い成長率を達成してきた。新型コロナウイルス対策も見事であり、昨年の経済成長率は2.91%であった。

 こうした高い経済率にも拘わらず、なぜ共産党がベトナムを統治しているかについて疑問を持つ国民が増加している。ベトナムでは日本のように世論調査の結果が公表されることはないが、2018年に死去したベトナム歴史協会会長のファンフィレ氏は、「1975年の南北統一後、国民の共産党統治に対する不満はこれまでになく大きくなっている」と語っている。

 その要因は、70%以上の国民がベトナム戦争終了後(75年)の生まれであり、45歳以下のベトナム人にとって「国の統一」のために共産党が果たした重要な役割は歴史の中の出来事になってしまっていることである。また、急速な経済発展と共に国民の間に「不平等感」(機会の平等がない)や「経済格差」が拡大している点で挙げられる。

 ベトナム共産党はこれらの点を認識し、この5年間、政治改革や汚職対策をはじめ様々な改革に取り組んできた。

 ベトナムと中国は、共産党一党統治という「器」は似ているが、統治方法等の「器の中身」は全く違う。ベトナムは独立後一貫して集団指導体制であり、少数民族の言語や文化も尊重している。FacebookやGoogle、Yahooにもほとんど規制はない。習近平体制下の中国では独裁、全体主義傾向をますます強めているが、ベトナムは国民の意向を出来るだけ尊重する「国民第一主義」ともいえる統治を維持している。ベトナム共産党は柔軟である。

 ただ、ベトナム共産党はこうした柔軟性を変更しようと試みているらしい。1月23日付けのエコノミスト誌の記事‘Vietnam’s Communist Party is in a weaker position than it seems(ベトナム共産党は、見かけより弱い立場にある)’は、「過去5年間に280名の人が反国家活動を理由に逮捕された(その前の5年と比較して68名の増加)。党は国営プレスに対して「市民社会」や「人権」というフレーズをページから消すように指示した。10月には政府は、「悪意ある投稿」の除去という要請の内95%に応じる確約をFacebookから取り付けた」と報じている。この取り締まりは、共産党がいかに国民の不満を心配しているかを示すサインであると見ることができる。

 共産党は、1980年代に中央計画経済から市場経済への移行を開始して以来、統治の正統性の根拠を所得増においてきた。ベトナムは新型コロナのダメージを克服して、今年5.2%成長するとの予測もある。しかし、前出のエコノミストの記事によれば、7%成長に早期に復帰できなければ、労働市場への新規参入者の吸収に苦しむことになり、同時に、不平等が広まっている。同記事は「いくつかの州では、上位20%の富裕層は、最貧困層20%の20倍以上の所得を得ている。慈善は、誰が党の書記長に選出されようとも重要な考え方である」と指摘する。

 いずれにせよ、3期目となるグエン・フー・チョン書記長率いる共産党新指導部が、政治改革と経済改革を今後どのように継続するか、米中覇権争いの中でどのような対外政策を打ち出すかは、東南アジア地域だけでなく日本の将来にも大きな影響を及ぼしうる。  

  
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