2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月11日

 8月26日、米国は南シナ海で人工島や施設の建設に関与してきた中国交通建設など24企業に対する輸出規制や役員の米入国の規制などの制裁措置を発表した。商務省の「エンティティ・リスト」にこれら24企業を追加し、米国製品の輸出を事実上禁止する措置である。これに関して、8月26日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説は、米国政府の今回の制裁を評価している。

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 制裁措置は、直接の効果は別として、中国の南シナ海政策のコストを引き上げるとともに、東南アジアの国々のこれら問題企業に対する姿勢を一層慎重にさせるだろうと述べている。なお、中国交通建設は、国有資本による従属会社で、関係企業は港湾、河川、道路、橋梁、鉄道、浚渫などの交通インフラの建設や設計、港湾向けの大型機械の製造などを行っている。同企業は「一帯一路」の活動もしているのであろう。

 今回の米国の措置は、大きな直接効果があるかどうかは分からないが、評価される。最近、米国は中国による南シナ海軍事化に対する反対を強めている。7月13日は、中国の南シナ海での九段線等の領有権主張等を非合法とした2016年7月12日のハーグ仲裁裁判所の判決の4周年に当たる日の翌日だったが、この日、ポンペオ国務長官は、声明を発出し、「中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うことを世界は認めない」と述べるとともに、仲裁裁判所の判決に「米国の立場を一致させる」と述べ、中国の主張は「全面的に非合法」と、それを否定した。また米国は、英国や豪州など関係諸国と協力して、南シナ海で「航行の自由作戦」を強化している。8月26日にも米国は南シナ海へ偵察機R132を飛来させた。なお、7月のポンペオ声明は歓迎されるが、もっと早期に明確にすべきだったという意見もある。

 中国は着々と既成事実を積み上げている。習近平が2015年に南シナ海を軍事化することはしないと約束したにも拘わらず、中国は仲裁裁判所の判決をゴミ紙だと言い放ち、その後、南シナ海の島嶼に次々と軍事基地を建設し、戦闘機などの運用や配備を進めている。香港紙によると、8月26日、中国は南シナ海に向けて弾道ミサイルの発射実験をしたという。「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」(射程1500㎞)と中距離弾道ミサイル「東風26B」(射程4000㎞)の2発とされるが、米軍によると、発射されたのは4発だったと言われる。これは前日渤海湾への米偵察機U2飛来に対する対米警告だったと言われる。目下中国は南シナ海、東シナ海、黄海、渤海湾の4水域で大規模な同時軍事演習をしている。中国の南シナ海の軍事化は、国際法に違反し、周辺国に脅威を与え、中国の正当な安全保障ニーズを超える挑発的なものと言わざるを得ない。

 中国に対しては、関係諸国の結集が重要である。ベトナム、インドネシアなど東南アジア諸国が中国の行動に抵抗していることは当然のことだ。その中で、フィリピンが独自の対中行動を見せていることは気掛りである。関係国はフィリピンとの協力、連携に努めていくことが重要である。

 8月末、エスパー国防長官はハワイ、パラオ、グアムを訪問した。それに先立ち、エスパー長官は8月24日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「国防省は中国に備えている」と題する論説を寄稿した。中国軍の活動を念頭に、南シナ海、東シナ海などを含むインド太平洋の情勢について、関係諸国と協議するとともに、米軍を視察する旨述べている。8月29日にはグアムで日米防衛相会談が開催された。エスパー長官が太平洋に対し関心を強めることは歓迎されることである。なお、パラオ共和国は台湾と外交関係を維持する大洋州4か国の一つである。

  
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