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2021年3月1日

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森地 茂 (もりち・しげる)

政策研究大学院大学客員教授

東京工業大学・東京大学・政策研究大学院大学名誉教授、2004~11年運輸政策研究機構副会長、運輸政策研究所長。編著に、『人口減少時代の国土ビジョン 新しい国のかたち「二層の広域圏」』(日本経済新聞出版)、『都市の未来―21世紀型都市の条件』(同)。

東日本大震災の教訓と
国土強靭化

 東日本大震災から、今後の災害時への教訓としては、県職員・陸上自衛隊・地元建設会社・国土交通省東北地方整備局の職員らが一丸となって障害を取り除き、短期間で救援道路を開いた道路啓開(くしの歯作戦)や、主要構造物の被害がなく早期に開通した新幹線と高速道路、移動式管制塔と段階的機能回復による仙台空港の救援機の早期受け入れなどがある。

 一方で反省点としては、①原子力発電所の対策不備、②津波被害を受けた土地利用、③実態と乖離していたハザードマップ、④津波対策がなかった空港、⑤防潮堤や水門の設計、⑥地下の電源や機械室の浸水被害、⑦非構造部材の被害などである。これらに対してはすでに対応が進められているものもあるが、②・⑥・⑦などは全国的にほとんど進んでいない課題である。

 東日本大震災を受けての最も大きな政策変更は、安倍晋三前政権下で進められた国土強靭化政策であろう。欧米諸国が持っているNational Resilience Plan をわが国も策定することとしたのである。「東日本大震災から得られた教訓を踏まえ、必要な事前防災及び減災その他迅速な復旧復興に資する施策を総合的かつ計画的に実施すること」と明記した国土強靭化基本法が13年に制定され、14年に基本計画が閣議決定された(18年に改訂)。

 これは災害のたびに繰り返されてきた〝想定外〟とは〝想定できなかった〟ケースだけなのかとの反省でもある。かつて、技術、予算、合意形成などで対応が困難な問題はあえて扱わなかったことがあった。例えば最近まで富士山の噴火や臨海部の空港の津波対策は取り上げられていなかった。対応困難と思う問題に対して、〝知っていながら対応していない〟という批判や〝予算を追加せよ〟という政治的圧力などに対する懸念からである。これは行政の世界だけでなく、災害に対する事業継続プラン(BCP)を持たない企業の多さや、病気になることよりもワクチンの副作用を過大視する人が多いことなど、問題を直視しない日本人の国民性ともいえる。

 国土強靭化は自然災害に対する日本社会の脆弱性を直視し、仮に大災害が起こったとしても、国家としての機能が維持できるために、何を重点的に守るべきか「選択と集中」をした上で投資するものであり、これは、日本という国を今後も維持・発展させるために必要な根幹にかかわるものである。

 ところが昨今では、インフラ整備というハード面よりも、「津波=逃げる」といったソフト面の対応を重視する傾向がある。もちろんソフト面の対策も大事なことではあるが、仮に多くの人々が津波から逃れて人命が救われたとしても、国家としての機能を維持するために必要な「財産」が残らなければ、その後の復興は大幅に遅れることは避けられない。そのためにも国土強靭化の観点は極めて重要なのである。

 地域防災計画は現存する状況下で災害が起こった時の対応策を計画するのに対し、国土強靭化計画は現存する状況そのものをいかに変えるかの計画である。その基本目標は、①人命の保護が最大限図られること、②国家および社会の重要な機能は致命的な障害を受けず維持、③国民の財産および公共施設に係る被害の最小化、④迅速な復旧復興の4つである。

 これらの基本目標のもとに事前に備えるべき人命、行政機能を守るなど8つの目標とその妨げになるものとして物資の供給停止、通信の遮断など45の起きてはならない最悪の事態を設定した。17の分野での対応から日本社会の脆弱性を評価し、重点的に充実、改革すべき施策を提起している。基本計画に加え、毎年のアクションプランを策定し、起こった災害への反省や施策効果を、PDCAサイクルを通じて次年度の計画に反映させる。また、都道府県の国土強靭化プランも策定され、市町村の国土強靭化プランも順次策定されている。

 例えば、今年度は特に、災害危険地域の土地利用規制と移転促進策、流域治水への転換、電力の早期復旧体制強化、災害時のコロナウイルス対応などに取り組まれている。

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