2022年12月7日(水)

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2021年3月1日

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森地 茂 (もりち・しげる)

政策研究大学院大学客員教授

東京工業大学・東京大学・政策研究大学院大学名誉教授、2004~11年運輸政策研究機構副会長、運輸政策研究所長。編著に、『人口減少時代の国土ビジョン 新しい国のかたち「二層の広域圏」』(日本経済新聞出版)、『都市の未来―21世紀型都市の条件』(同)。

もう一つの大きな課題
インフラの老朽化

 災害対応に加えてもう一つの課題はインフラの老朽化である。インフラの老朽化は12年の中央自動車道笹子トンネル天井崩落事故のような事象のみならず、災害時の被害を拡大し、救援さえも困難にする。

 米国では、インフラの老朽化の問題が1960年代から顕在化していた。建設から30~50年後にその老朽化が深刻な社会的課題として顕在化したのである。日本でもインフラが急速に整備された高度成長期の60年代から50年以上を経過し、インフラ老朽化が深刻な状況にある。

(出所)wikiwand:list of bridge failures 写真を拡大

 米国政府が橋梁の維持管理政策を開始するきっかけになったのは、67年に46人が死亡した、西バージニアの「Silver Bridge」の崩落事故であった。70年代には橋梁診断マニュアルと専門家の認定制度が整備され、専門家が点検していたにもかかわらず、81年にミズーリ州で死者114人、負傷者200人という橋梁事故が起こった。その年、パット・チョート氏とスーザン・ウォルター氏により、劣化するインフラに警鐘を鳴らす『荒廃するアメリカ』(開発問題研究所)が出版された。その1週間後にはチョート氏はレーガン大統領に呼び出され、即座に公共事業費の増額が決定されたと本人から聞かされた。しかし、その後40年経った現在、なお全米で5万橋以上が危険な状態で通行規制されており、右表に示す通り毎年のように落橋事故が発生しているのである。

2007年8月、ミネソタ州ミネアポリスで崩壊したI-35W橋
(MARK WILSON/GETTYIMAGES)

 米国の経験から日本が学ぶべき4つの教訓は、第1に、予算制約などで修繕が必要な施設を累積させると、その回復に長期間を必要とすることである。橋梁も毎年高齢化が進み老朽橋梁が累積されていくからである。わが国では、修繕費、改修費など施設の寿命期間の総経費(ライフタイムコスト)を最小化する維持管理が志向されるようになってはいるが、多くの自治体でまで実行されているわけではない。

 第2は、構造物には多数の部材があり、その細部の欠陥の検知は容易ではないことである。わが国では、近接目視検査が義務付けられ、またドローンの利用や、非破壊検査をはじめ様々なセンサー技術の開発、IoTや人工知能(AI)技術も急速に普及しつつある。電子データ整備とそのビッグデータ活用は点検内容、検査周期や補修方法などのメンテナンスシステムを抜本的に改善することにつながる。米国だけではなく欧州を含め世界で頻繁に発生している橋梁事故が日本で起こっていないのは、現場で働く技術者の努力によることが国民にも政治家にもあまり知られていない。いつまでも現場任せにすることはできない。

 第3は、既存不適格施設の問題である。災害や事故の後、設計基準や都市計画上の規制などが見直された結果、それ以前に整備された基準を満たさない施設が多く存在することである。例えば、わが国の道路橋設計基準に疲労破壊が考慮されたのは2000年以降であり、それ以前に整備された橋梁が多く存在するので、疲労亀裂の点検が欠かせないのである。

 第4は、米国で自治体管理の施設の事故が多いことである。わが国で政令市を除く市町村の管理する道路橋梁は全体の約7割と圧倒的に多く、しかも3割の市町村には技術者がいないのである。このため、自治体管理の道路橋についても5年に1回の点検が義務づけられた。各種インフラについて自治体の支援策として、民間への包括的委託制度や民間技術者の資格制度、国の技術的支援などが導入されているが、問題が解決したわけではない。メンテナンス事業についての地元企業優先、小規模分割発注などを続けていては、技術導入や開発は進まないことへの対応も真剣に議論されるべきであろう。

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