2022年12月7日(水)

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2021年3月1日

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森地 茂 (もりち・しげる)

政策研究大学院大学客員教授

東京工業大学・東京大学・政策研究大学院大学名誉教授、2004~11年運輸政策研究機構副会長、運輸政策研究所長。編著に、『人口減少時代の国土ビジョン 新しい国のかたち「二層の広域圏」』(日本経済新聞出版)、『都市の未来―21世紀型都市の条件』(同)。

南海トラフ、首都直下地震……
緊急の課題

 国土強靭化を扱うナショナル・レジリエンス懇談会で議論されていることではあるが、残された課題のうち特に大きなものは以下のとおりである。

 第1に、南海トラフ地震や広域災害に対して、各種物資の製造元の被災や交通途絶で全国的供給力不足が発生し、また自治体間などの支援協定も機能しなくなる恐れである。

 第2に首都直下地震に対しての一極集中構造への対応と、東海道幹線の途絶対策である。高速道路については新東名・新名神高速道路の整備が進んでいるが、耐震性に優れたリニア中央新幹線の早期整備が東海道新幹線の代替路線としても、国土構造改編のためにも必要不可欠なのである。

 第3に、命を守るためのソフト施策は災害のたびにマスコミで取り上げられ、意識改革も進んだが、家屋や財産の損失を防ぐための方策の拡充、すなわちインフラの強化や、移転の促進など地域ごとの取り組みの推進が必要である。

 第4に、事前対策としての課題である。事前復興と呼ばれる安全な都市への改造はほとんど進んでいない。例えば危険地域にある市役所などの移転は、現状改変に対する抵抗で頓挫しがちである。また事前復興計画を市町村単位で行うというのも問題である。限界集落化する地域に住み続けたい人への支援と同時に、拠点都市への移転希望者への支援のためには広域的取り組みが欠かせないのである。

 第5に、福祉施設や高齢者住宅などは早期整備のために市街化調整区域への立地を認められてきた経緯があり、結果的に災害危険地域に多くの施設が現存している。茨城県、岡山県、熊本県と福祉施設の浸水被害が毎年続いており、避難所も含めて再配置を急がねばならない。また、コロナ禍対応で避難所の環境改善努力はなされているものの、欧州各国に比べると見劣りのするわが国の避難所や仮設住宅は今のままでいいのであろうか?

 第6に広域避難の課題も深刻である。例えば東京下町の0㍍地域(人口約176万人)は、荒川の氾濫や高潮水門の故障によって長期にわたって水没する。地下鉄トンネルを通じて東京都心も水没するため、現在地下鉄トンネルを閉め切るドアの設置や、路上の地下鉄出入り口からの水の流入を防ぐ工事が進められている。4㍍の水深となる地域は広域であり、道路容量は不足するので、24時間前から鉄道による域外避難を開始する必要がある。一方、トンネルや鉄道車両の水没を避けるためには、鉄道サービスを早めに停止しなければならない。

 また、現存する高層ビルだけでは避難民を受け入れる空間には不十分なので、スーパー堤防で避難スペースを確保することも必要なのである。地元区の反対にもかかわらず、スーパー堤防は無駄だと切り捨てた政治家は、このような状況にどのような対策を想定したのであろうか。来年度以降の予算で国土強靭化が重点施策とされているが、予算のみならず、用地確保をはじめとする合意形成や、関係組織間の調整など制度的改革、技術開発などやるべきことは多い。

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