強いテニスプレーヤーになることは目標だが、人間としても成長したい
母国・日本で行われる東京五輪への思いも彼女は人一倍に強い。全豪優勝の一夜明け会見で大坂はメディアに「五輪は私には特別です。初めての五輪が東京なんて私にとっては夢のよう」と率直な気持ちを明かしている。
一方で大会前にも共同会見で、
「東京五輪は、私にとって特別中の特別です。たとえ2週間隔離されてもプレーする。ただ最も優先されるのは、日本の一般の人々についてです。多くの国から人々を受け入れることによって、日本の人々の安全が脅かされることがあってはならない。それが私の願いでもあります」
と注釈を付けつつ複雑な心境も明かしながら、東京五輪について「提言」。ただ〝開催ありき〟ではなく母国・日本に住む人たちの安全にも配慮しながら、何かと尻込みしがちな他の有識者よりも一歩踏み込んだ言葉を発している。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言にも大坂は「少し無知な発言」と指摘し、自らの主張を世界に投げかけている。そして後任の橋本聖子新会長が誕生したことには「女性にとっての障壁が取り払われることはとてもいいことです」と称賛を送りつつも、同じ女性の立場から森前会長の発言を巡って「私たち女性には平等になるために多くのことで闘ってきた経緯があります。いまだにさまざまなことが平等ではないのです」と再度、問題提起することも忘れていなかった。
昨年秋の四大大会・全米オープンを制覇した際、黒人差別反対運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」を受け、黒人被害者の名前が入ったマスクを試合ごとに付け替えながら着用し、世界に訴えていたことも記憶に新しい。やはり大坂は自らの「発信力」の大きさを理解し、メッセージを発して世界を良い方向へと導けるように日々努めているのであろう。
今から数年前、大坂がまだブレイクする前の時代に一度取材をさせてもらったことがあった。その当時、彼女は、
「強いテニスプレーヤーになることは目標だが、人間としても成長したい。どのような状況になっても周りを見て何が正しいか、悪いことなのかを判断できるようにならなければいけない。周りに流されるようになってはいけないと思う。そういう当たり前のことができる自分を確立したい」
と述べていた。今の大坂は少なくとも、その当時の「目標」には到達できていると感じている。果たしてこの先、どれだけ成長していくのだろう。
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