2024年4月25日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年3月4日

できないと感じさせている要因は?

 それでは、なぜ接種が間に合わないとか、集団接種会場を設けるなど、特別なことをしないとできないのかという話になっているのだろうか。もちろん、特別なことをしなくてもできるという首長もいる。東京都練馬区の前川燿男区長は、通常の診療所での個別接種を中心に進めると表明した。前川区長は、都の福祉部門で長く働いていたので実情を良く知っているのだろう。しかし、多くの自治体は、集団接種を考え、できるかどうか悩んでいるようだ。なぜなのか、いくつか理由を考えてみた。

1.オリンピック前に、ワープスピードで接種しないといけないのにそんなことはできないので、できないと言っている。しかし、そもそも、そんなにワクチンが来るはずもないのだから心配することはない。接種体制の不備ではなくて、ワクチン供給の不備でできないだけだ。

2.インフルエンザワクチンは普通の冷蔵庫で管理できるが新型コロナワクチンはマイナス70度で保存しないといけないという違いがある(これはファイザーの場合、最近ではマイナス20度でも良いとされている。アストラゼネカは2度から8度、モデルナはマイナス20度)。インフルエンザワクチンは毎年5%が無駄になっている。冷蔵庫で保管しても、いつまでも保管できるわけではないから、当然無駄が出るだろう。インフルエンザワクチンなら無駄になっても誰も気にしないが、貴重なコロナワクチンを無駄にしたとなればマスコミが黙っていない。マイナス70度で保管(ただし、ドライアイスの保冷ボックスで10日間、冷蔵庫で5日間の保管が可能)のワクチンならインフルエンザワクチン以上の無駄が出るだろう。だから、難しいと予防線を張っているとみられる。

3.インフルエンザワクチンは、大人は1回打てば良いがコロナワクチンは2回打つ必要がある。間違いなく2回打たなければならないとするのと、その管理はどうするのだろうか。管理に失敗して世間の非難を浴びたらいやだ。だから慎重かつ厳密にする必要があると言っているのだろう。

 上記の1についてはもう答えを書いた。2と3についての私の答えは、まず2.については、無駄は出るものだと認識すれば良いというだけだ。出ても仕方がないし、無駄が出そうだったら近所の人に配れば良い。診療所は診察券を持っている人の住所や電話番号を知っている。携帯番号を知っている人も多いだろう。「今からなら先着5人に接種できますよ」とショートメールや電話で知らせても良い。診療所のドアに貼っても良い。

 こういうと、間違いなく2回接種できなくなるという反論があるだろうが、ゼロ回より1回でも接種したほうが良いのではないか。イギリスや欧州など、1回をなるべく多くの人に接種した方が良いとしている国もある。そもそも、超低温での保管・運搬と大量の接種者をさばくという2つの任務を行うより、前者の任務だけに集中したほうが楽なのではないか。

 3.への答えは、2回を間違えても構わないということだ。コロナワクチン接種は普通の人々にとって人生の大イベントで、しかも長い針を垂直に刺す筋肉注射で行われる。大部分の人は覚えているに違いない。日本では、筋肉注射はほとんど行われておらず、筋肉注射をしたことがない医者も多いと聞いた。だから、何回打ったか間違える人は少ないだろう。一方、高齢者以外の持病のある人の接種は、自己申告で行うと政府は言っている。政府が国民の病歴を知らないのだから、そうするより仕方がないが、持病のない人が申告して早く接種する可能性は排除できない。あるところは厳密だが、別のところは雑である。大事なのは、ワクチンを無駄にせず多くの人に接種することだ。


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