2月4日、米国のバイデン大統領は、外交政策に関する演説を行った。バイデンは、その中で、米国は同盟関係を修復し再び世界に関与する、米国の指導力は中国やロシアを含む権威主義の台頭に対処しなくてはならない、と述べた。
この演説を受けて、シンガポール国立大学のジェイムズ・クラブツリー准教授が2月16日付のフォーリン・ポリシー誌に、「バイデンの貿易政策は中国のアジアでの力を強めるだろう」と題する論考を掲げている。クラブツリーは、米国の製造業を復活させるというバイデン政権の国内政策とアジアにおける指導力の復権を目指す外交政策を両立させることは容易ではないと述べている。
バイデン政権は、内政では製造業の復活と雇用の増大を、外交ではアジアにおける経済的指導力を取り戻すことを、政策の中心に掲げている。そして、内政と外交は密接に関連しており、勤労者階級の支援を外交にも反映させると言っている。
バイデンにとって、大統領選挙で2016年にトランプが勝利したペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンのラストベルト3州で勝つことが至上命令であった。バイデンは「より良き再建(build back better)」のスローガンのもとに製造業の復活と雇用の増大を訴え、ラストベルト3州で勝利し、大統領選挙で勝った。バイデンは選挙中に「中間層のための外交(a foreign policy for the middle class)」を掲げたが、具体的な政策としては、①過度なグローバル化反対、②「バイ・アメリカン」政策、③「サプライ・アメリカ」政策がある。
①の過度なグローバル化反対については、米国の経済的競争力が落ちている状況の下で、グローバル化は外国企業の進出や輸入の増大を招き、米国の雇用を奪う結果となるので、消極的にならざるを得ない。②の「バイ・アメリカン」政策については、バイデンは1月25日、「バイ・アメリカン」法の適用強化の大統領令に署名した。これは年間6000億ドルと言われる連邦政府の調達契約で、米国製品の調達拡大を目指すものである。③の「サプライ・アメリカ」は、サプライ・チェーンの国内復帰を支援するもので、それによって雇用を確保しようとするものである。バイデンの「米国第一主義」は、何よりも製造業を守り、米国の中間層を支援しようとするものである。
外交面でアジアにおける米国の経済的指導力を取り戻そうとする政策については、クラブツリーの論説が明らかにしているように中国が主導権を握っている。その背景には、米国の経済力の低下がある。かつては米国は自由貿易のチャンピオンで、米国の市場を世界に開放し、アジア諸国はその恩恵を被り、米国市場はアジアの目覚ましい経済発展を支えた重要な要素の一つであった。それが現在では中国にとって代わられている。その上、もしバイデン政権が、米国の中間層の利益を通商政策に反映させようとすれば、アジア諸国にとって米国の経済的魅力はますます減るであろう。「バイデンの貿易政策は中国のアジアでの力を強めるだろう」というクラブツリーの論説の題名はそのことを端的に示している。
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