2024年6月17日(月)

Washington Files

2021年3月15日

切迫した北朝鮮の核開発問題

 もうひとつ、バイデン大統領が,日韓関係修復を急ぐ背景には、切迫した北朝鮮の核開発問題がある。

 金正恩朝鮮労働党委員長は、バイデン政権誕生以来、これまでのところ、核実験再開、ミサイル発射実験など挑発的な動きを一切見せておらず、米側の今後の対応を慎重に見極めているとみられる。トランプ前政権下では、政権発足直後の2017年2月12日に「北極星2号」ミサイル発射実験に踏み切ったのを皮切りに、同年3月6日、3月22日、4月4日、4月16日、4月29日と、ほとんど毎月のように各種ミサイル実験を繰り返し、同年だけで16回にも及んだ。ところが、バイデン大統領が就任した1月以来、ぴたりと鳴りを潜めた状態が続いており、今のところ、前政権時と好対照をなしている。

 一方で、北朝鮮はICBM、 SLBMほか、日本などを射程にした短、中距離ミサイル能力の改善、強化に乗り出してきており、アメリカ側の対応次第では、何が起こるかわからない、まさに一触即発の状態にあると言っても過言ではない。そしてもし、有事となった場合に、アメリカとしては、同盟国である韓国、および日本とともに迅速な共同対処を求められるものの、日韓両国が現在のような冷たい関係のままだった場合、作戦展開上、大きな不安材料となる。ここは早急に、アメリカ主導の下、日韓両国が一体となって日本海における共同作戦を真剣に検討する必要に迫られている。

 日韓両国関係の現状を見ると、文在寅大統領就任以来、「従軍慰安婦」「徴用工」などの歴史問題めぐり再び悪化の一度をたどり始め、今日に至っている。安保協力面では、有事の際に決定的に重要な役割を果たす「日韓軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)について、文政権は2019年8月、一方的に「終了通告」に踏み切った。この措置には、米国防総省が憤慨し、一時は米韓同盟関係にもひびが入りかねない事態となり、韓国政府は同年11月、あわてて「終了通告」の「効力停止」を発表したが、その後も不安定な状態が続いている。

 この間、安倍政権は国内保守派の強固な支持基盤をバックとして、韓国に対し毅然たる態度をとり続けた一方、文政権も反日感情の強い1960年代生まれの世代を中心とした世論を背景に、対日関係改善に踏み出す姿勢も見せないまま、双方の不信感を増幅させる一方だった。わが国外務省の当局者の間でも今日、両国関係は「1965年関係正常化以来、最悪」との声も聞かれる。

 このままでは、アメリカの外交・安全保障の基軸をアジアにシフトし、「同盟諸国との関係強化と再構築」を優先課題に掲げたバイデン・ドクトリンも看板倒れに終わりかねない。

 そのために、バイデン大統領としては真っ先に日韓両国の関係修復に着手する必要があったことは間違いない。

 今、冷静にアメリカの立場から見るならば、世界各国とののあらゆる関係の中で、日米韓の関係ほど「いびつな3国関係」はないかもしれない。すなわち、アメリカは日本、および韓国との間で運命共同体的意味合いを持つ密接な「同盟関係」をそれぞれ維持しながら、一衣帯水の国である日韓両国同士はたんなる「友好関係」でしかない。しかもその「友好関係」自体も今日、互いに不信感を募らせた心もとない状態にある。

 在任中、「アメリカ一国主義」を貫き通し、欧州・アジア同盟諸国との関係を揺さぶったトランプ氏が、この奇妙な日韓関係について1つだけまっとうと思える疑問を呈したことがあった。

 これまでマスコミではあまり報じられたことはなかったが、トランプ大統領は2019年4月、ワシントンを訪問した文在寅大統領との会談の場で、率直にこの“難問”を話題に取り上げた。そのときのやりとりは、会談に同席したジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が辞任後、発刊した回想録の中で暴露している。ボルトン氏はこう記述している:

 「トランプは『韓国は日本と合同軍事演習をやることを欲していないが、(有事の際に)日本とともに戦うつもりがあるのか』と尋ねた。文在寅は率直に『日韓両国は合同演習を行うことはできる、しかし、自衛隊部隊をわが国に入れることは、わが国民に過去の歴史を思い出させることになる』と応じた。トランプは再び『もし、米軍が北朝鮮と戦うことになった場合、どうなるのか、韓国側は日本の作戦参加を認めるのか?』と詰め寄った。文は明確な返事はしたがらなかったが、『この問題は心配していない。いざとなれば、自衛隊がわが国土に踏み入らない限りにおいて、日韓両国は一つになって戦うことができる』とだけ述べた」

 おそらく今日、バイデン大統領も日韓関係について、同様の懸念を抱いていることは想像に難くない。しかし、同大統領が今後、菅首相、文大統領との間の仲介に乗り出したとしても、根深い国民感情が双方に立ちはだかっている以上、この厄介な3国関係をどこまで前進させられるかは楽観を許さないだろう。

  
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