世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月31日

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 ドイツは今年、連邦議会選挙を頂点とする「スーパー選挙年」を迎える。その先陣を切って、3月14日に南西部の2州(ラインラント=プファルツとバーデン=ヴュルテンブルク)で州議会選挙が行われた。結果は概ね、緑の党の台頭、メルケル首相の与党であるキリスト教民主同盟(CDU)の敗北、右翼政党「ドイツの選択肢(AfD)」の大幅な後退となった。大連立政権のパートナーである社会民主党は、全国レベルでは支持率を落としてかなり苦しんでいるが、両州では微減で何とか踏みとどまった。

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 今回の選挙の直前に、与党CDUではスキャンダルが相次いだ。3名の連邦議会議員が、マスク購入や外国政府との観光業で不当な利益を得ていた疑惑が持ち上がり、辞職が相次いだ。16年という長い政権が続くと、やはり規律が緩んでくるのかもしれない。もともと新型コロナウイルスによるロックダウンで市民の政府に対する不満が高まっていたところに、汚職疑惑が持ち上がり、メルケル政権はかなりの打撃を受けた。昨年の3月~4月頃、コロナが始まったばかりの頃は、メルケル人気は絶好調であったが、今回の二つの州議会選挙で負けたことで、CDUの失速は確実になった。

 メルケルは、大きな政治力を持って長期政権を率いてきたが、後継者を育てなかった。自身のライバルになりそうな政治家は、ことごとく追い落としてきた。1月に選出されたラシェット新党首は、最もメルケルに近いということが強みで選ばれたのだが、影が薄いと言わざるを得ない。また、メルケルが保守政党のCDUをかなり中道に寄せたことで、社民党や緑の党といった左派政党の支持者層に食い込んだ一方で、この層は、簡単に元の左派政党に戻ることもある。現に今回、CDUから緑の党に流れた有権者がかなりいる。逆に、右派の支持層をAfDに奪われた。ラシェットでは、この層を取り戻すことができない。そこで浮上しているのが、CDUのバイエルン州における姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)のゼーダー党首を連邦首相候補として総選挙を戦うという説である。より右派のゼーダーCSU党首ならば、AfDに流れた票を取り戻せるのではないかという計算である。しかし、ゼーダーではバイエルンという地方性が災いして、全国区では勝てないかもしれない。第二次大戦後、バイエルンの政治家が連邦首相になったことは一度もない。

 そうすると、左を緑の党に奪われ、右をAfDに奪われ、CDUの支持はやせ細る可能性がある。緑の党は、このところ安定的に20%台に支持率を乗せてきているが、9月の選挙後、30%台を取る政党が一つもないという事態もあり得る。CDUにこれ以上スキャンダルが続くとそうなる可能性が大きくなる。

 かつて、小党乱立によりワイマール共和国政治は混乱した。戦後、西ドイツ・統一ドイツの安定を築いたのは、二大政党制が揺るがなかったからである。その中心には常にCDUがあった。SPDが弱まり、CDUも弱まれば、ドイツでもまた、小党乱立、不安定な多党連立政権時代が来るかもしれない。統合のシンボルのメルケルの時代は、皮肉なことにドイツの政党政治の黄金期の幕引きとなってしまうかもしれない。現状では、連邦レベルでCDUが大勝するシナリオは考えられない。ラシェットでもゼーダーでも、あるいは第三の人物が現れるにしても、大きく勝てる候補者はいない。それはSPDも同様で、現状維持が精いっぱいである。

 唯一大勝のシナリオが描けるのは緑の党である。この夏が異常気象で非常に暑い夏にでもなれば、緑の党に追い風である。ただ、緑の党の中は一様ではなく、現実主義者もいるが、まだまだ原理主義的環境主義者もいる。バーデン=ヴュルテンベルク州での緑の党の勝利は、クレッチマン州首相の現実主義に負うところが大きかった。緑の党がこれから選挙綱領などで、どのようなラインを打ち出してくるのか、目が離せない。

  
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