1月16日、昨年の4月以来、新型コロナのため延期に延期を重ねてきたドイツの最大与党CDU(キリスト教民主同盟、中道右派)の党首選がようやくオンラインで実施された。前任者アンネグレット・クランプ=カレンバウアー(AKK)は、州選挙で敗北を重ね、2020年早々に辞意を表明したのを受けてのことである。選出されたのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州首相のアルミン・ラシェットである。
候補者は、ラシェットの他、元CDU議員団長のフリードリッヒ・メルツ、連邦議会外交委員長のノルベルト・レットゲンの3名。第1回の投票結果は[メルツ385票、ラシェット380票、レットゲン224票]、決選投票の結果は[ラシェット521票、メルツ466票]と僅差だった。メルツが保守派、他の2名は中道派である。ラシェットはメルケルに極めて近い存在であり、CDUはメルケルの中道リベラル寄りの路線を継承することを選んだと言える。
ラシェットは、対ロシア政策(したがって対ウクライナ政策)では親露派であり、ノルド・ストリーム2推進派。対中政策でも親中派であり、5GにHuaweiを受け入れるべきだと、2019年ターゲスシュピーゲル紙インタビューで発言したことがある。貿易問題でも中国寄りのスタンスで知られており、これまで彼が首相を務めてきたノルトライン=ヴェストファーレン州は積極的に中国の投資を受け入れている州として知られている。この意味で、ラシェット政権が誕生したとすると、日本にとって必ずしもやりやすい相手ではない。
ただ、このまますんなりとラシェットがメルケル後継の首相となるかは不透明である。予備選でも露呈したように、ラシェットは不人気である。予備選直前の公共テレビ放送ZDF局の調査でも、ラシェットが「首相としてふさわしい」と思う人はたったの19%で、「ふさわしくない」と思う人が64%であった。これに比べれば、まだメルツは「ふさわしい」が31%、「ふさわしくない」が55%であった。さらに、64%が「ふさわしい」と思い、2位の社民党の首相候補オラフ・ショルツ現財務相をも大きく引き離しているのが、バイエルン州首相でCSU(キリスト教社会同盟;バイエルン州におけるCDUの姉妹政党)のマルクス・ゼーダー党首である。
当面注目すべきは、CSU党首のゼーダーがCDU/CSUの統一首相候補になり得るのかという点である。世論調査だけ見ればゼーダー人気が圧倒的であるが、バイエルン一州のみの政党の党首であり、その他のドイツ全土を押さえるCDUとは重みが違う。しかも、これまで、保守派がCSU出身候補で戦って総選挙に勝利したことは一度もない。
右寄りのゼーダーを選べば、確かに中道の選挙民を緑の党や社会民主党に奪われるであろう。しかし、強い保守を望んでいる右派の選挙民を取り戻すことはできるかもしれない。最終的に緑の党をCDU/CSUが少しでも上回れば、連立政権形成の主導権を握ることができる。
ラシェットを選ぶと、中道の選挙民は残り、比較的多くの票をとれるかもしれないが、右派の票は極右のAfD(ドイツのための選択肢)に流れる可能性が高い。そうすると、前回2017年選挙よりさらに連立形成が困難な状況が生まれるかもしれない。2017年選挙後は、CDU、FDP(自由民主党)、緑の党の3党で連立交渉をしたのだが、FDPが途中で投げ出してしまい、結局、CDUと社会民主党との大連立政権の継続になった。
一方、総選挙で第二党になると思われる緑の党も、党内に左派から右派まで様々な勢力を抱えており、どこが主流になってくるかで連立政権の在り方も変わってくるだろう。
秋の総選挙までには、まだまだ曲折がありそうである。
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