世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年1月20日

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 1月2日付のワシントン・ポスト紙は、今回のEUと中国との包括投資協定は、欧州と米国の間に楔を打ち込むものであり、中国にとっての外交上の大勝利である、との社説を掲げている。

Igor Vershinsky / masterSergeant / iStock / Getty Images Plus

 EUと中国は昨年12月30日、「包括的投資協定」を結ぶことで大筋合意した。貿易全般ではなく、投資に限られているとはいえ、EUと中国にとって経済的利益は大きい。

 EUと中国は、この協定の締結を急いだ形跡がある。一つには、ドイツのメルケル首相が協定の締結の促進に努めた事情があった。投資協定がドイツの自動車メーカーの中国進出により有利な条件を創るからであった。メルケル首相は、2020年7月1日にEUの輪番制議長国職に就き、その期限が2020年12月末に来る。EUの議長国職にある間に協定を締結しようと努めたのだと思われる。これに関して、ワシントン・ポスト紙の社説は、中国のウィグル族や香港民主化への人権弾圧が続いているにかかわらず、自国の企業利益のためにメルケルは合意を急いだと、批判している。

 投資協定の締結が急がれた今一つの重要な理由は、米国のバイデンである。バイデンは中国政策についてのEUとの協議を考えており、安全保障担当補佐官に任命されたジェイク・サリバンが「中国の経済的行動についての共通の懸念を欧州のパートナーと早期に協議する」と公に呼び掛けていた。EUも中国もバイデン政権が発足する前の協定の締結を望んでいたとしても不思議ではない。

 そう考えると、EUは明らかに米国を無視したことになる。歴史的な米=EU関係からは考え難いことである。その背景には、トランプの政策が、米=EU関係に打撃を与えた事実もあろう。また、今回のEUと中国の協定の締結に重要な役割を果たしたメルケル首相の対米不信感もある。メルケルは2017年の演説で、欧州はもはや米国に頼ることはできないと述べている。

 バイデンは米欧関係の修復を掲げており、今回のEUと中国との投資協定の締結はバイデンにとって打撃ではあるが、EUとの関係修復には努めるであろう。

 ワシントン・ポスト紙の社説は、西側諸国は中国と関わる条件をもっと管理すべきである、と提案している。これが具体的に何を意味するかは明らかでないが、香港やウイグル族などに対する習近平の政策が変わらない中で、EU、米国、日本などの西側諸国の中国との経済的関わりをどうすべきかについて協調していく必要がある。今回のEUと中国の投資協定の締結が、中国にとって外交上の大勝利であったことは社説の言う通りだろうが、西側がそれが大勝利に終わらせないようにすることが肝要である。

  
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