2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年1月14日

 2020年12月31日の英国の正式なEU(欧州連合)離脱(いわゆるBrexit)を1週間後に控えた12月24日、英国とEUは、難しい交渉の末、妥結を発表した。英フィナンシャル・タイムズ紙コメンテーターのロバート・シュリムズリーが、12月24日付けの同紙に、英国とEUの合意の意義を論じ、それはEUと英国との関係の始まりの終わりにすぎないとの見解を述べている。

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 英国のジョンソン首相は、2019年12月の総選挙を「Brexitを片付ける(get Brexit done)」ことを公約して戦い圧勝した。そのマンデートを背負って交渉に臨み、no-dealも辞さないと土壇場まで粘った上で、まずは友好的に離脱することに成功した。これは疑いもなくジョンソン首相にとって勝利である。

 ジョンソンは、EUとの合意を「ジャンボのカナダ型のFTA(自由貿易協定)」と呼んだ。この合意によって「我々は法律と運命のコントロールを取り戻した」と彼は述べたが、彼の言う「主権」を取り戻すために如何ほどのアクセスを犠牲にすることになったのかは追々明らかになるであろう。例えば、金融サービスの取り扱いは今後の展開にかかっている。重要なことは、まずは友好的に離脱したことでEUとの間に経済をはじめ関係全般を緊密に維持して行く可能性が残されたことにある。これを歴史的な区切りとして、出来るだけ残留派を含めてBrexitを巡る国内の確執に終止符が打たれることが望まれようが、それはジョンソンがこの可能性を活かし約束した繁栄を実現出来るかに係わるところが大きい。シュリムズリーの論説が、これは単に「始まりの終わりに過ぎない」と言う所以である。

 一方、EUの観点からは、「地理的近接性」と「経済的相互依存」という特殊な環境の中で単一市場のインテグリティーを守る合意を達成し得たということであろう。EUが交渉を通じて加盟国の結束を堅固に維持したこと、特に北アイルランド問題との関係で大きな政治的危険に晒された小国アイルランドの利益にも目配りを怠らなかったことは称賛に価しよう。

 英国は長年にわたりEUに縛られるとの感情からすっきりしないものを感じ居心地の悪さを感じて来た。EUの掲げる「ever closer Union」の理念には違和感を抱いて来た。英国が未だ加盟国であったなら、EUが復興基金の創設やその財源としての共通債券の発行に踏み切れたかも定かではない。そうであれば、英国が離脱したことに、EUに安堵を覚える向きがあったとしても不思議ではない。EUにはEUのプライオリティがある。フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は記者会見で「Brexitを過去のこととする時である、我々の将来は欧州で作られる」と述べたが、実感がこもっているように思われる。

  
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