世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年3月19日

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 英国政府は、3月1日、米国とのFTA(自由貿易協定)交渉を、3月中に始める予定であることを発表した。

 米英両国とも、FTA交渉に前向きである。英国は、Brexit(EUからの脱退)に伴い、世界との貿易関係を再構築する必要があり、米国とのFTA交渉を重視している。他方、米国は、トランプ大統領が、貿易取り決めをディールがしやすい2国間で行うことを優先しており、Brexitは英国とのFTA交渉を行う好機であると考えている。トランプは、昨年6月に訪英した際、Brexit後の英国とは「とてつもない」貿易協定が可能であると述べた。

Motortion/iStock / Getty Images Plus

 英国のエリザベス・トラス国際貿易大臣は、3月1日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙への寄稿で、米英FTAのメリットを強調し、米英 FTA 交渉を楽観視しているが、実際の交渉ではいくつかの困難が予想される。

 まず、5Gの問題がある。英国は限定的ながらファーウェイの参入を認め、これに対しトランプ政権が猛反発している。ジョンソン首相がトランプ大統領との電話会談で、その件を伝えた時、トランプが激怒したと言われていることは、本コラムでも以前、紹介した(英のEU離脱で困難に直面する米英の「特別な関係」)。ファーウェイの参入問題は容易に解決しそうにないだろう。

 次に、英国のデジタル課税がある。英国のデジタル課税に対し、米国は自動車とその部品につき報復関税をかけている。

 それと、農産品も問題である。ポンペオ国務長官は、英国による農産品輸入の基準の緩和を強く要請したが、農産品の輸入は英国の農業政策と深くかかわりを持つものであり、英国としてはポンペオ長官の要請に簡単には応えるわけにはいかないだろう。

 また、米国はエアバスに対する補助金に対し、EUに対し報復関税をかけたが、Brexitの結果、英国を報復関税の対象から外すかどうかの問題もある。

 米国とのFTA交渉に臨む英国にとって、EUとの関係が大きな影を落としている。英国は本年中にEUとの交渉を結ばなくてはならない。英国がEUとの交渉で、どの程度EU の規制を受け入れるかどうかが問題となる。米国政府としては英国がどの程度EUの規制を受け入れるかが明らかになるのを待つことも予想されるが、トランプとしては、英国からの何らかの譲歩を導き出して大統領選挙でのプラスの材料にしたいとの考えもあるかもしれない。いずれにしても、英国は、貿易交渉を、米国とEUと2正面でしなければならない、タフな一年となりそうである。

 トラス大臣は、米英FTA交渉は、英国が欧州を超えた関係を米国と構築する重要な一歩であると言っている。しかし、英国は、EUから離脱したとはいえ、EUは英国の最大の貿易相手であり、EUとの関係は重要であり続ける。米英FTAは、英国とEUの関係にとって代わるものではなく、英国にとって米国もEUも重要である。

 米英FTA交渉が、5G、デジタル課税、農産品など多くの難題を抱えていることもあり、トラス大臣のウォールストリート・ジャーナル紙への寄稿は、米国向けに米英関係の重要さを殊の外強調したメッセージといえるだろう。

  
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