去る7月のEU首脳会議で新型コロナ対策の「復興基金」と今後7年の中期予算が合意された際、EUにおける法の支配を確保するために復興基金とEU予算に基づく加盟国への資金援助についてコンディショナリティ(条件)を導入することが併せ合意された。加盟国が援助を受けるには法の支配が確立されていることが前提条件になる。この合意は簡単かつ漠たるもので正確に何が合意されたのかも明確でないが、この合意を具体化する交渉が行われて来た。11月10日にコンディショナリティを導入する新たな仕組みについてEUの議長国ドイツと欧州議会との間で合意が成立したが、ハンガリーとポーランドは、これに強く反対している。
コンディショナリティの新たな仕組みはEU規則の形式をとっている。EU規則はEUの立法形態の一つであるが、加盟国を直接拘束する。これが成立すると画期的なことである。しかし、交渉は難航している。法の支配を無視するハンガリーとポーランドを念頭に導入が決定された訳であるから、当然ではあるが、両国がこれに反対している。特にハンガリーは、すべてに合意が成立するまでは何も合意されていないとし、加盟国の全会一致を要する中期予算に拒否権を行使することも辞さないとの強硬な立場を維持している。
交渉難航の理由はそれだけではない。オランダや北欧などは法の支配と資金援助の間に強いリンクを要求する立場である。他方、イタリア、スペイン、ギリシャなど復興基金による資金援助に期待する諸国には過大な要求が復興基金の発足を遅延させるとの懸念があるようである。加えて、欧州議会がその存在感を示したかの印象がある。欧州議会ではかねて法の支配の徹底を求める意見が支配的で、新たな仕組みに納得するのでなければ、復興基金とEU予算の議会承認はないというのが彼等の立場であった。
交渉を纏める努力を強いられたのが議長国のドイツである。11月5日、欧州議会と新たな仕組みのEU規則について合意を達成した。それによれば、「加盟国における法の支配の原則の違反がEU予算の健全な財政管理あるいはEUの財政上の利益に十分直接的に影響を与えあるいは与える深刻なリスクがある」場合にEUが適切な措置を取ることを規定している。手続き的には、欧州委員会が以上の要件が満たされる事態を認定した場合に、当該加盟国に反論あるいは是正措置を取る機会を与えた上で、理事会に適切と認める措置を提案すべきこと。そして、理事会は特定多数決(加盟国数の55%、人口比で65%以上の賛成)で提案を採択出来ることを規定している。適切な措置の対象は復興基金を含むEUの全ての資金であり、措置としては資金援助の支払い停止や削減などを列挙している。
ドイツは多方面に目配りしてバランスを取ることに腐心したようである。仕組みが広範な財政制裁ではないことを明確にすべく措置発動の要件を絞り、措置が過度に安易に発動され得るとの印象を避け(欧州議会は欧州委員会が提案する措置の発動の承認ではなく、その否認に特定多数決を要することを主張していた)、他方で、「法の支配の原則の違反」の例示としてく、司法の独立を危うくすることなどを具体的に書き込むなどした。しかし、11月19日のTV方式によるEU首脳会議でもハンガリーとポーランドの同意は得られず、交渉は持ち越した。
ここはEUとして突き放す必要がある。ここまで来て引き返す術もない。ハンガリーとポーランドのやっていることは目に余る。両国は主権の擁護などを装って反対しているが、その実態は権力の維持、金銭的利益、腐敗という自己利益のための反対であるとの指摘もある。なお、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11月25日、両国は異議があるのであれば欧州司法裁に判断を仰ぐべきだと述べ、強硬な姿勢を示している。
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