世界の記述

2020年9月11日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 新型コロナウイルスの打撃から景気復活を図る欧州連合(EU)経済復興基金を巡り、EU首脳は今年7月、7500億ユーロ(約92兆円)の拠出額で合意した。

danielsbfoto / Kagenmi / iStock / Getty Images Plus

 7500億ユーロのうち、3900億ユーロは返済なしの補助金で、3600億ユーロは融資となる。中でも、コロナ被害の大きいイタリアは総額2090億ユーロ、スペインは1400億ユーロと、南欧諸国への高額支援に難色を示す国々もある。

 スペインのサンチェス首相は8月31日、「復興基金で国内総生産を2%上げることが可能」と誇示、「団結して働かなくてはならない」と国民に訴えた。

 この経済復興基金は、主に環境やデジタルへの投資が目的とされるが、EUが資金の使い道に疑いがあると判断すれば、出資を停止できる制度も確立する予定だ。

 ボレルEU外交安全保障上級代表は、スペインの主要紙エルパイスに対し「補助金は、条件付きで行われるため、簡単ではない」と警戒。「条件をパスできるかは不安。各国議会の批准もまだ得られていない」と述べた。

 イタリアは9月1日、ジェンティローニ金融・経済担当委員から「税金を下げるための復興基金ではない」との警告を受けている。

 財政規律を重視するオランダ、デンマーク、スウェーデンなどの北欧「倹約国」は当初から、債務危機を経験したスペインやイタリアへの支援に反対。北と南の労働文化や生活観の差が、交渉を停滞させた原因といわれる。

 オランダのフックストラ財務相は「なぜ南欧諸国にはコロナ危機対策の蓄え金がないのか」と痛烈批判。同国のデイセルブルム元財務相会合議長が「(スペインでは、支援金が)女性とアルコールに消える」と皮肉った過去の言葉も報道され、両国に亀裂が走った。

 こうした動きから、EUは自国優先主義に走っていると非難される声もあったが、復興基金合意という具体的な「成果」によって、むしろ結束を深めたとの見方が強い。フォンデアライアンEU委員長は4月、イタリアに対し、早期に手を打てなかったことを謝罪。その上で「謝罪だけでは事態は変わらない」とし、欧州の一体化を訴えた。

 米ブルームバーグ通信によると、EUは来年、経済成長率が5.5%に伸び、米国を1.5%上回るという。「過去30年間で、8度だけ起きた現象」とも指摘した。

 復興金はまだ批准されておらず、北欧「倹約国」と南欧諸国の間でもう一悶着起きる可能性もある。だが、EUがコロナによって浮き彫りになった南北対立を乗り越え、統合に向け以前にも増して前進していることは間違いなさそうだ。

  
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