世界の記述

2020年8月26日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 スペインの前国王フアン・カルロス1世(82歳)の離国のニュースが8月3日、スペイン国内を震撼(しんかん)させた。翌朝には、全国の新聞が一面で大々的に報じた。民主化の英雄に一体何が起きたのか。

「亡命」したスペイン前国王フアン・カルロス1世 (AFP/AFLO)

 事実上の「亡命」は、2014年に生前退位した前国王が、息子のフェリペ6世現国王(52歳)に宛てた書簡を、スペイン王室が発表したことにより発覚した。前国王は「スペイン国外移住という熟慮の上での決意を、国王のあなたに伝える」としたためた。

 スペインでは、1939年からフランコ総統が死去する75年まで独裁政権が続いた。総統の死後、前国王が即位し、81年にはフランコ派のクーデターを命懸けで阻止。民主化の英雄として、長年、国民に支持されてきた。

 そのような前国王がなぜ、スペインを去る決断を下したのか。スペイン国内では、過去の愛人問題や金銭疑惑が、退位後にも次々と浮上したことで、王室や息子への批判の高まりを回避するためだとみられている。

 2012年4月、スペイン経済危機の最中、前国王がアフリカのボツワナに愛人女性と象狩りに出かけ物議を醸した。この女性には6500万ユーロ(約79億円)が渡ったと報じられている。前国王は「申し訳ない。私の間違いだった。二度と繰り返すことはない」と謝罪したが、国民の反感は増していった。

 前国王に詳しいフランスの歴史家、ロランス・ドゥブレ氏は「有名な象狩りの前に死去していたら、民主化の奇跡をもたらしたこの男は、英雄のまま死んだはず」とスペイン紙エル・パイスに語った。

 前国王は08~12年の期間、スイスの隠し口座から、毎月数十万ユーロを引き出している。10年の1年間には、合計150万ユーロ(約1億7000万円)分の現金引き出しの形跡が見つかっている。

 その他にも、王室の信頼失墜をまねく事件が相次いだ。元五輪選手で、現国王の姉クリスティーナ王女の夫が、公金横領罪で逮捕。禁固5年10月の有罪判決を受け、18年から現在も服役中だ。

 そして今回、前国王の離国を決定づけた最大の要因は、サウジアラビア高速鉄道建設計画を巡る1億ドル(約105億円)の収賄疑惑だ。今年3月、スイスとスペインの検察が捜査に乗り出していた。

 前国王の弁護士は、捜査には協力する用意があるとし「国外逃亡ではない」と念を押す。

 しかし、バルセロナ在住のクリスティーナ・ビックさん(33歳)は「生まれだけでお金に困らない王室などいらない」と語る。もはや国民の反応は冷ややかだ。

 コロナ禍の経済危機が叫ばれる中、王室反対の動きは今後、さらに激化するだろう。

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