2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年4月23日

 3月18日、欧州中央銀行(ECB)は、本年、欧州の社債と国債をさらに7500億ユーロ買うと発表した。これは、ECBがあと9か月の間に、合計1兆1000億ユーロをユーロ圏の債権に使うことを意味する。これは、かつてない程の規模の経済支援であり、新型コロナウィルスによる経済的損害を救援しようとするものである。

Leestat/iStock / Getty Images Plus

 これに関して、米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院のエリック・ジョーンズ教授は、4月6日付のフォーリン・アフェアーズ誌のサイトに「新型コロナウィルスへの経済対策を脅かす欧州の古い対立」という論説を寄稿した。「欧州の古い対立」とは、2009年末のギリシャの財政危機や2011年のイタリア、スペイン、ポルトガルの債務危機の際の、ドイツなどのEU北部の諸国と、実際に債務危機の当事国でなった南部の諸国との対立を指す。ドイツなどは、ギリシャ、イタリア、スペインなどの債務危機への救援に際し、緊縮財政、構造改革など厳しい条件を付した。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大による経済危機では、最も苦境に立たされているイタリアとスペインの救済に際し、ドイツとオランダは 、ECBによる 1兆1000億ドルの欧州社債、国債の買い上げに、当初、難色を示した。これは、ECBの政策がイタリアとスペインの社債、国債の買い上げを意味し、両国に安易な形で融資をすることになるという理由からである。しかし、最終的にはしぶしぶ合意した。また、3月24日にクリスティーヌ・ラガルドECB新総裁が提唱した「コロナ債」に対し、やはりイタリアとスペインに条件の緩い融資をするものとして、ドイツとオランダは反対し、「コロナ債」は発行されなかった。

 ドイツとオランダの言い分は、イタリアとスペインが放漫財政の結果、国の債務を増やし続けているというものである。債務の削減に厳しく対処している国々がなぜ放漫財政の国々の借金を肩代わりしなければならないのかという理由である。これは一理あるが、今回は経済危機の原因は新型コロナウイルスの感染拡大で、イタリアやスペインの経済運営の甘さとは関係がない。

 ジョーンズ教授の論説が「イタリアとスペインに厳しい経済改革を求めるには十分な理由があるが、今はその時期ではない」と言っているのは、まさにその通りである。「ユーロ債」の発行が適当かどうかの問題はあるが、この際ドイツとオランダは、危機に瀕しているEU加盟国を救済し、EUの一体性を維持、強化すべきである。ドイツのマース外相とショルツ財務相が欧州安定メカニズム(ESM)を用いた救済を強化するよう呼び掛けているとのことであるが、これまでESMの利用に際しては経済・金融改革へのコミットメントが求められてきたという。それでは従来のドイツの立場と変わりないのではないか。マースとショルツがESMの利用に際しどのような条件を付そうとしているのか確かめる必要がある。ジョーンズ教授が、新型コロナウイルス危機のように貧富を問わずすべての国が襲われる場合には、EUは国の違いを超えて機構の一体性を維持すべきである、と述べているのは、まさにその通りであろう。

  
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