創業178年の英老舗旅行会社「トーマス・クック」が9月23日、経営破綻した。トーマス・クック・グループは、最大株主の中国投資会社「復星国際」から9億ポンド(約1186億円)の救済資金を得ていた。しかし、事業の継続を不安視する大手株主や主要取引先銀行から2億ポンドの追加資金を求められ、それに対応できず救済交渉は不成立、9月に破産申請へと至った。
この経営破綻により、もっとも深刻な被害を受けたのが、年間8200万人の外国人観光客が訪れる世界第二位の観光大国スペイン。同国はトーマス・クックの最大の市場であり、年間2200万人の利用客のうち700万人がスペインへの旅行客だ。トーマス・クック傘下の航空会社の営業停止により、スペイン行きの123万席がキャンセルされた。
中でも、人気リゾート地のテネリフェ、ラスパルマスなどのカナリア諸島や、イビサ、マジョルカ島のあるバレアレス諸島には、年間400万人の観光客がトーマス・クックの航空便を利用し、訪れていたが、倒産直後、89万席の予約キャンセルが発生した。
スペイン航空協会のハビエル・ガンダラ会長によると、10月末から来年3月末までの5カ月間で、「トーマス・クックは、スペインに65万席を追加で提供する見通しだった」と述べた。
航空便による観光客減少のみならず、老舗グループが提携するホテル業界も先行きが暗い。
ホテル・観光宿泊施設協会のフアン・モラス会長は、スペイン経済紙「シンコ・ディアス」に対し「(トーマス・クック提携の)国内500施設が即閉鎖になり、状況はさらに悪化する」と語った。
さらに、同国経済紙「エコノミスタ」(電子版)によると、トーマス・クック経由で訪れる観光客の移動を商売にするバス、ツアーガイド、レンタカー会社の従業員1万人も失業の危機に晒されているという。
トーマス・クックの雇用者数は、世界で2万2000人。スペインの場合、バレアレス諸島だけで1000人が失職を迫られている。
オンラインでの旅行予約サイトや格安航空の普及により、今では個人が簡単にパッケージツアーを組めるようになった。世界初の旅行会社トーマス・クックの倒産は、ひとつの時代の終わりを象徴している。
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