2022年12月4日(日)

Washington Files

2021年3月29日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

思いのままにその権力を行使できる

 「ワシントンで最も価値ある上院議員The most important senator in Washington」―CNNは先月23日、こんな見出しのニュース解説を流し、この中で、マンチン議員の存在について以下のように報じた: 

 「与野党勢力が50対50で真二つになった上院審議では、カマラ・ハリス副大統領の1票が決め手になるといわれてきた。だが、チャック・シューマー民主党院内総務含め他のどの議員よりも権力を握ったのが間違いなくマンチンだ。彼は今や思いのままにその権力を行使できるに至った。彼は昨年上院選で勢力拮抗が確定した11月以降、『わが国を進歩派路線から中道寄りに引き戻す絶好のチャンスを手中にした』として党内における“決定者decider”としての自らの新たな役割に言及した。まさに、タンデン女史のOMD起用に異議を唱え一人立ちはだかったことは、シューマー院内総務や院内外のリベラル派に対し、自分がいかなる権力を掌握しているかを悟らせたものだった」

 実際、マンチン議員は上院当選以来、ワシントンのひのき舞台で“異端児ぶり”をいかんなく発揮してきた。その中には①オバマ民主党政権が推進したエネルギ安定供給政策に反対②同政権が提唱した銃砲規制措置に強硬反対③民主党進歩派グループが取り組んできた「国民皆保険制度」実現に反対④ナンシー・ペロシ下院議長らが提案してきた連邦最高裁判事定員枠拡大に反対⑤民主党主流のかねてからの主張である「時給15ドル」最低賃金制度への反対⑥トランプ大統領が打ち出したアフガニスタンからの米軍早期撤退案への支持表明⑦同大統領があいついで任命した保守派最高裁判事への支持投票―など、いずれも民主党にとっては数々の“不都合な実績”がある。

 その一方で、マンチン議員はかつて1960年代にジョンソン民主党政権が積極的に取り組んだ黒人地位向上のための「公民権運動」に徹底して反旗を翻した超保守派のジョージ・ウォーラス・アラバマ州知事(当時)のような、常道からはみ出した過激思想とは一線を画し、社会正義を重視する「是々非々主義者」としても知られてきた。

 それを裏付けるかのように、マンチン議員は、トランプ大統領がウクライナ疑惑をめぐり「権力乱用」「偽証」に問われた最初の上院弾劾裁判では他の民主党議員とともに「有罪」票を投じ、去る1月6日の連邦議事堂乱入事件をめぐる2度目の大統領弾劾裁判でも同様に決然たるアンチ・トランプ裁断を下している。生活困窮者を守る立場から、共和党の主張する「オバマケア」撤廃には断固反対してきたのも、自らの信念に基づいたものだった。

 ただ、政治イデオロギー的にはどちらかと言えば、政府援助を極力切り詰め「自助努力」「スモール・ガバメント」(小さな政府)を信条とする共和党路線に近く、実際に多くの共和党政策を支持してきたことも事実だ。このため、マンチン議員に対しては、共和党幹部から同党への鞍替え打診も過去に何度か行われてきた。そしてもし、彼がここで民主党を離脱することになれば、上院の均衡は破れ、バイデン政権にとって今後の政権運営上大ピンチに直面することは間違いない。

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