2024年11月22日(金)

補講 北朝鮮入門

2021年4月9日

 なお、韓国の聯合ニュースによると、北朝鮮のパラリンピック委員会も東京大会への不参加を国際パラリンピック委員会に伝えたという。

 近年の北朝鮮は人権問題で批判されることを気にしている節があり、金正恩政権になってからパラリンピックに参加するようになった。2013年には国連の障害者権利条約に署名し、15年には平壌障害者交流団が英仏両国で「白雪姫」などの公演をした。16年に導入された平壌地下鉄の新型車両には高齢者と障害者の専用座席があり、同年に開館した平壌の科学技術殿堂という施設には障害者専用の閲覧室が設けられた。国家を代表する研究機関である社会科学院には人権問題研究所も新設された。

 障害者施策を充実させることで人権重視だとアピールしたい思惑があるようで、パラリンピックへの不参加は対外イメージ戦略の面でマイナスと言えそうだ。

公表の時期とスタイルには残る疑問

 不思議なのは、3月25日に開かれた朝鮮オリンピック委員会総会について伝えた翌日付け『労働新聞』に五輪不参加への言及がなかったことだ。『労働新聞』の記事と「朝鮮体育」サイトの発表は、五輪不参加を除けば同じ内容だった。

 不参加の公表が1週間以上も後となった理由は不明だ。金正恩の最終的な決裁を待ったのかもしれないし、4月7日のソウルと釜山での市長補選に合わせた発表とすることで文在寅政権に不満をぶつけたのかもしれない。

 朝鮮中央通信や朝鮮中央テレビ、『労働新聞』といった国営メディアではなく、体育省のウェブサイト「朝鮮体育」で公表されたことも異例である。しかもサイトのトップページではなく、「体育活動消息」というコーナーに目立たない形で載せられただけだ。重要な記事はほぼすべて朝鮮中央通信で流されるはずなのだが、この原稿を執筆している4月7日深夜までに五輪不参加に関する配信はない。その意味では、文在寅政権の対応如何によってはどんでん返しの可能性も全くのゼロではない。北朝鮮は「電撃的」なことを好むからだ。

 今回は、珍しく北朝鮮体育省のウェブサイトがニュースの発信源となったが、近年は北朝鮮の政府機関が対外宣伝を目的に次々とウェブサイトを立ち上げている。これも金正恩時代の変化である。2018年に設置されたポータルサイト「広野」には40もの北朝鮮のウェブサイトが紹介されている。朝鮮中央放送や労働新聞だけウォッチしていれば良い時代はとうに過ぎ去ったことを痛感せざるを得ない。

 ただし、ウェブサイトへの接続は自己責任で行ってもらいたい。危険だとして社内ネットワークからはアクセスできない措置を施している会社もあるので注意が必要だ。

  
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