半導体業界のスタンダードは
「水平分業」になるのか?
ここまでの流れを見ると、半導体業界のスタンダードは「水平分業」であり、業界の王座はファウンドリ、つまりTSMCになるように見える。
しかし、ファウンドリにも懸念材料がないわけではない。実際、売上に占める投資割合が増えてきており、依然としてリスクが高い状況にあることに変わりはないからだ。いったん技術的なトラブルが発生してしまうと、致命傷になる可能性もある。
微細化競争にも物理的な限界が訪れている。7ナノ、5ナノ、3ナノと進むと、それ以上微細にすることが不可能になる。そこで進められているのが「積層化」だ。インテルは「EMIB」と呼ばれる、新しい積層化技術を進めており、ここで革新的な技術を生み出すことができれば、ファウンドリに対抗することができる。
筆者の推測ではあるが、インテルも今後、一部の半導体に関してはファウンドリに委託する可能性があると考える(一部同様の報道もある)。これまでブラックボックスにしてきた生産技術をファウンドリに明かしてしまうことに抵抗はあるだろうが、生産プロセスにおいてファウンドリと互換性を持つようにすれば、リスクヘッジにもなる。自社での生産も継続し、国内における雇用と技術を守るという、両にらみの戦略をとるのではないだろうか。
また、米中貿易戦争、新型コロナウイルス感染症によるデジタル製品への需要が急増したことなどによって、産業界における半導体不足に拍車がかかっている。その影響は自動車業界にも波及し、3月半ばには、トヨタがメキシコ工場の一時停止を発表したほか、ホンダも米国、カナダでそれぞれ生産を停止した。
こうした半導体不足の一因には、半導体製造がTSMCなど少数の企業に寡占化したことも関係している。筆者は、半導体不足は、22年あたりまで続くであろうとみている。コロナ禍によってクリティカルな医療用製品の生産を国内で行うべきという議論がなされるように、半導体においても一定程度は「国内に製造設備を持つ」という動きが出てもおかしくはない。実際、欧州連合(EU)は3月に入って、域内での半導体製造を拡大させる目標を打ち出した。30年までに金額ベースで次世代半導体の20%のシェアを獲得するというものだ。このような動きは、米国内に生産設備を持つインテルにとっては追い風になる。
さらに3月後半、インテルが2兆円を投じてアリゾナ州に製造工場を建設することを発表した。ファウンドリ事業にも参入することを表明しており、TSMCなどファウンドリ勢に反転攻勢をかけた。4月に入ると、今度はTSMCが製造能力を高めるために今後3年で約11兆円の投資を明らかにするなど、両者の動きは目まぐるしい。いずれにせよ、半導体業界は大きなターニングポイントにあり、ここ数年で新しい姿が見えてくる。
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