WEDGE REPORT

2021年4月20日

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杉山和弘 (すぎやま・かずひろ)

1977年生まれ。2000年にNECに入社、10年ルネサスエレクトロニクスに転籍し、LSIの製品設計から事業戦略立案業務に従事。その後、IHSマーキットを経て、現在オムディア(OMDIA)のコンサルティングディレクターを務める。

インテルが新工場に2兆円を投じると発表すれば、TSMCは3年で11兆円投資すると発表。両社の駆け引きは激しさを増す (CHESNOT/GETTYIMAGES)

 「台湾積体電路製造(TSMC)」の名前を新聞などで見ない日はないというほど、このところ注目度が高い。1年前には50ドル台後半だった株価は、今年2月には140ドルまで高騰した。「ファウンドリ」と呼ばれる半導体製造会社がなぜこれほど注目されるのか。実は、世界の半導体業界では、今まさに王座が交代しようとしているのだ。長らく王者として君臨してきたインテルの株価は、TSMCとは対照的にこの1年、40~60ドル台で推移している。インテルが半導体の設計から製造まで一貫して自社で行ってきた(垂直統合)のに対して、TSMCは製造だけに特化すること(水平分業)で台頭してきた。このまま王座交代になるのか……。

〝リビングレジェンド〟が
インテルに復帰

 2月16日、〝リビングレジェンド(生きる伝説)〟とも言える、パットリック・ゲルシンガー氏(59歳)が、インテル8代目の最高経営責任者(CEO)に就任した。ゲルシンガー氏は、18歳でインテルに入社し、働きながらスタンフォード大学で学位を取得し、MPU(コンピュータのCPU〈中央処理装置〉として使われる)「インテル・コア」の開発を主導してきた。副社長、最高技術責任者(CTO)も務め、2009年に退社した。ここにきてなぜ、出戻り人材が社長に返り咲いたのか。そこにはインテルの置かれた〝苦境〟が反映されている。

 インテル創業者の1人であるゴードン・ムーアが提唱した、「半導体の集積密度は18カ月~24カ月で2倍になる」という「ムーアの法則」を地で行く形でインテルは半導体業界の王座に君臨してきた。しかし、この微細化で躓くことになる。線幅10ナノ(ナノは基礎となる単位の10億分の1)プロセスの量産に遅れた結果、TSMCなどに先を越され、7ナノ、5ナノプロセスでTSMCが量産を開始しているのに対して、インテルは23年までずれ込むという指摘もある。ムーアの法則というロードマップを守れなくなり、ファウンドリに先を越されてしまったのだ。

(出所)各種報道を元にウェッジ作成 写真を拡大

 インテルは、これまで「インテル・ルール」とも言える、独自の設計、独自の製造方法など、すべて自前で行うことを強みとしてきた。

 しかし、インテルが製造してきたMPUに求められるのが処理速度の速さがメインだったところから、スマートフォンなどが高性能化していくなかで、画像処理のためのGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット=画像処理半導体)やメモリなど、複数の機能を内蔵する必要が出てきた。こうしたなかで、GPUの企画設計を得意とするエヌビディアなど、工場を持たないファブレスメーカーが台頭してきた。つまり、自前だけで設計することが難しくなりつつあるのだ。

 前社長であるボブ・スワン氏は、18年に、前任者の不祥事によって最高財務責任者(CFO)と兼務する形でCEOに就任した。だが、その後も微細化競争の遅れを取り戻すことができず、エンジニア出身トップの待望論が起き、ゲルシンガー氏に白羽の矢が立った。エンジニアがトップになることで、微細化のロードマップと、実際の設計製造現場とのバランスをとることが可能になる。また、ゲルシンガー氏自身、この10年間ソフトウエア会社でCEOを経験したことによって、ファイナンスや経理などの知見を身につけたことでも大きな期待が寄せられている。

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