2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年4月21日

 4月9日、米国務省は、米台当局者の接触についてのガイドラインを改定し、台湾との接触の制限を緩和することを明らかにした。国務省のプライス報道官の発表によれば、従来は自主制限していた、米連邦政府庁舎、また、駐米台北経済文化代表処(事実上の在米台湾大使館)などの台湾公館における実務者レベル協議が可能となる。

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 トランプ政権の対中政策は、バイデン政権になって「融和路線」に舵を切るのではないかと考える人たちは少なくなかった。しかし、実際にバイデン政権が発足した後も、トランプ政権下の対中政策は基本的に続いているばかりか、ブリンケン国務長官が指名承認公聴会で発していた「台湾当局の関係者たちとの接触の余地をもっと増やしたい」との言葉通り、より強硬な政策がとられつつある面がある。

 バイデン政権の対中路線の全体を評価するのは、いまだ時期尚早であるが、最近の米国の対台湾支援策は、79年以来の米中関係に新たな段階を画するものとなりつつある。
 
 振り返ってみれば、トランプ政権下では、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官が、習近平指導部は「全体主義の奉仕者である」と発言して、米国としては中国政府との間での「関与政策」を以後停止したい、と発言したりした。トランプは蔡英文の総統就任直後に電話会談を行うというような、新しい方式も採用したが、そこで止まっていた。なお、李登輝元総統の葬儀に際しては、トランプ政権下のアザール厚生長官(閣僚)が台北に出張したが、これは例外的事例として扱われた模様である。

 しかし、バイデン政権成立以降の対中政策は、トランプ時代のような「一国主義」ではなく、同盟国、友邦との関係を重視した「多国間主義」をとりつつ、中国への政策を推進しつつある。その中でも、台湾との関係では、米政権としては、これまでの民間レベルの非公式接触であったものを、より公的なレベルでの接触の交流に格上げしようとしているように見える。

 3月末には、台湾と外交関係をもつ南太平洋の小国パラオの大統領が台湾を親善訪問したが、その時、在パラオ駐在米国大使が同大統領に随伴した形で台湾を訪問し、蔡英文総統に会見した。また、ワシントンにおいては、1月のバイデン総統就任式に駐米台北経済文化代表処の蕭美琴代表(事実上の大使)が招待された。東京においては、台湾日本関係協会の謝長挺代表が在日米国大使館を往訪したことが報じられている。このように「一つの中国」政策という、ある意味では同床異夢の言葉を使用しつつ、米台関係をこれまで以上に強化しようとするバイデン政権の対中手法が明白となってきている。

 バイデン政権の対中政策のうち、気候変動条約のような長期的課題については、今後、米中間で話し合いによる妥協が図られる余地がある。しかし、当面の課題である諸問題――新彊ウィグルの人権問題、香港の民主派弾圧、南シナ海・東シナ海での対立、台湾周辺海域における中国の軍事的攻勢と米軍の牽制等―――をめぐっては、逆に米・中・台間の緊張関係が高まりつつある。

 習近平政権としては、台湾問題については、「中国は一つ」「台湾は中国の一部」であるとの常套句で、これからも外交、軍事、経済など諸方面において、台湾を締め付ける構えを変えていない。上記パラオ大統領の台湾訪問の際には、中国は10機の戦闘機を台湾の防衛識別圏に侵入させたが、その後も、中国製空母を台湾周辺海域に派遣したりして、台湾を威嚇している。それに対し、米国は過去2か月の間に、台湾海峡に軍艦を通航させるとともに、南シナ海で空母2隻による異例の演習を行ったりして牽制している。

 台湾をめぐる米中関係は、その緊張の度合いを明らかに増大しつつある。台湾の呉釗燮・外交部長(外相)は4月7日、「中国による台湾侵攻の危機が高まっていると米国は見ている」と述べるとともに「そうした事態になれば、台湾は最後まで戦う覚悟である」と発言した。

  
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