オックスフォード大学総長で英国の元香港総督のクリス・パッテンが、2月18日付のProject Syndicateで、バイデン政権の対中政策の初動を評価するとともに、G10など民主主義諸国による対中結束をより進めるよう求めている。
香港の最後の元総督であったクリス・パッテンは、最近の香港をめぐる動き、とくに香港についての中国の国家安全法制定による民主化運動弾圧の動きや、50年間にわたり香港に対し約束していた「一国二制度」の国際ルールを中国が一方的に破棄したことなどをつぶさに観察してきたであろう。
2月18日の論説において、パッテンは、バイデン政権の対中政策を「良いスタート」を切ったと評価しつつ、今日の習近平体制については、全体主義的な脅威であるとして、強い警戒感と危機意識を示している。
バイデンの大統領就任式から約1か月になるバイデン政権の中国への対応を全体として評価するのは、時期尚早であるが、パッテンの見方は、元英国香港総督の意見として傾聴に値するものであろう。
パッテンによれば、バイデン政権になってから、3つの勇気づけられる展開があったという。第1は、新疆ウイグルにおけるイスラム教徒の「ジェノサイド」の問題である。ブリンケン米国務長官は中国共産党がウイグル人の「ジェノサイド」に手を染めていると非難した。第2に、サリバン米安保担当補佐官は、武漢その他におけるコロナウイルスの起源の調査をしたWHOの代表団について、中国は隠蔽工作を行い十分な協力を行わなかったため、真相は不明のままであると批判した。第3は、バイデン自身が、同盟国やパートナーたちと協力して中国問題をはじめとするグローバルな問題に多国間主義で対処する覚悟を示したことだという。
「中国がもっとも望まないのは、自由民主主義国家が一致団結して中国の恐るべき振る舞い(appalling behavior)の数々に対抗することだ」とパッテンは述べている。
さらに、パッテンは、われわれは中国の台湾への脅迫・圧力を決して傍観しないことだ、と主張する。民主主義下の台湾との接触を増やし、高度な公共衛生のレベルを維持する台湾を、せめてオブザーバーとしてWHOに参加できるように協力すべきだ、という。
本年6月のG7サミットでは、英国が議長国になるため、英国として準備しなければならない多くのことがある、として、より良い国際秩序に必要なパートナーシップを構築するためとして、インド、豪州、韓国を招待した「G10」の形で会議を開催し、中国の独善的行動を阻止する必要がある、とも述べている。
バイデンの対中政策については、中国が気候変動や疫病との闘いなどの問題で、中国が建設的になる準備があるなら、中国と協力することはやぶさかではないとのバイデンの発言を紹介しつつ、今日の中国に果たしてそのような協力を期待できるのかという疑念が残る、というのがパッテンの見方である。「バイデン政権は中国について良いスタートを切った」という本論評の表題は、中国への「関与政策(engagement policy)」を今後は取りやめると言ったトランプ政権下でのペンス、ポンペオたちの発言とは異なるが、バイデン政権が対中融和政策をとるのではないかとの一部の予想とも異なっている、とのパッテンの安堵感を示すものだろう。
中国との向き合い方では、日本にも従来以上の覚悟が求められるだろう。尖閣問題は言うまでもなく、人権、台湾問題など、「自由で開かれたインド・太平洋」の在り方をめぐって、日本が主導的に果たすべき役割は今後とも増大することが見込まれるからである。
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