WEDGE REPORT

2021年2月1日

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齊藤孝祐 (さいとう・こうすけ)

横浜国立大学研究推進機構特任准教授

1980年千葉県生まれ。2011年筑波大学大学院人文社会科学研究科国際政治経済学専攻修了、博士(国際政治経済学)。専門は国際政治学、安全保障論、科学技術と政治。著書に『軍備の政治学』(白桃書房)など。

 米中を中心に、極超音速兵器や量子技術といった戦場で利用される先端技術の研究が盛んだ。さらに高度な無人機の開発も進み、有人機と行動することで戦略の幅も大きく広がる。人間の処理負担軽減や、低コストかつ人命リスクを抑えた運用が出来るなどの利点も併せ持つ。
  
 今後技術の中心となるのが人工知能(AI)だ。主に軍事作戦における人間の意思決定の補助、情報処理能力向上、あるいはサイバー分野での利用が想定される。米中に加えロシアではAI搭載の自律型無人機の開発も進む。他方、AIの軍事利用には世界で慎重な声があがる。人間の関与なしに殺傷能力を持つ兵器が自律的に行動した場合にどうすべきか。具体的な規制や罰則のコンセンサスは取れていない。

 しかし米中対立の下、今後の日本の安全保障を見据えるにあたり、AIの軍事利用を巡る動きと影響を考慮しないわけにはいかない。日米同盟のあり方や、中国の戦略を読み解くにも新たな価値観が求められよう。気鋭の専門家が、日本のとるべき道を提言する。
中国編はこちら。

  米中対立が先鋭化する中、先端技術の動向に注目が集まる。米国でも人工知能(AI)をはじめとする先端技術を軍事部門に取り込むための研究が加速している。

訓練中の米兵と無人飛行機。今や無人兵器の活用が広がり、今後はAIを駆使した技術開発が加速する (LENNART PREISS/GETTYIMAGES)

 AIの戦略的な利用が加速度的に進められるようになったのは、2014年に発表された「国防イノベーションイニシアティブ」、そしてそれを受けて展開された「第三次オフセット戦略」でのことである。そこでは、AIやビッグデータの活用が「人と機械の協働」を実現し、さらにサイバーセキュリティーや電子戦、ミサイル防衛といった分野において迅速かつ良質な意思決定を可能にする方法として注目されるようになった。

 その後、AI利用の検討が進み、現在は戦場から通常業務まで幅広い利用が模索されている。たとえば18年に国防総省が発表したAI戦略では、作戦補助、訓練、維持管理、部隊保護、兵員の募集、ヘルスケアなどを含めて、あらゆる分野へのAI導入を進めていくことが示された。

 また最近では、「全領域統合指揮統制」のコンセプトを実現するためのAI活用も提案されている。これは、最適な標的選択・武器選択を行うためのシステムを構築しようというものである。このほかにも、ロボット兵器に一定の自律性を持たせることで、中国などが作り出している接近阻止・領域拒否(A2/AD)環境への対応能力を高めるといったアイディアもある。

(出所)防衛省・外務省資料、各種報道を基にウェッジ作成 写真を拡大

 その一方、AI導入を通じてシステム制御が人間の手を離れることへの警戒も早い段階から見られる。AIはあくまでも人間が利用するものであって、それにとって代わるものではないという方針はここ10年ほど一貫しており、特に自律型致死兵器システム(LAWS、右表)のような殺傷兵器の導入には、国内外の議論で抑制的な態度を示し続けている。並行してAI倫理や安全基準の策定も進められており、米国は軍事安全保障分野におけるAI利用のあり方を、まさに走りながら考えている状況にあると言えよう。

 なぜ米国でこのようなAIへの取り組みが加速しているのか。背景の一つとして、冷戦後に米国が享受してきた国際政治上の優位が失われつつあるとの認識がある。特に昨今の中国の経済・軍事両面での興隆、そして14年のクリミア併合問題を契機に改めて警戒されるようになったロシアの動きは、こうした懸念を急速に顕在化させた。

 もう一つ、米国自身が財政面で厳しい状況に置かれたことも重要な背景である。アフガニスタン、イラクでの軍事行動が長引くことで戦費がかさみ、08年には追い打ちをかけるようにリーマン・ショックが発生したことで、予算環境は大きく悪化した。加えて、冷戦終焉から続く兵器のハイテク化志向が装備品の調達価格を高騰させてきたことも問題であった。

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