AIの利用方針をめぐる価値意識の問題は、民間との連携においても重要な課題を投げかける。AIの開発やデータ活用にはグーグルやマイクロソフトなど「GAFAM」などの大企業やスタートアップ、大学などの協力も欠かせない。だが、そうした民間組織がいかなるときも、もろ手を挙げて国防総省の事業に参加するわけではない。
実際、グーグルは社内の反対によりデータ処理アルゴリズムの開発プロジェクト(MAVEN)や新規のAIインフラ事業(JEDI)への入札から撤退し、その後兵器や人を害する技術を追求しないとの原則を発表するなど、自社の規範を追求するケースもある。
こうした状況下、国防総省は20年に「商業界、政府、学界、一般市民の主要AIエキスパートとの15カ月間の協議」に基づいてAI5原則を発表し、開発や利用の指針を明示するといった対応も進めている。AIに限らず、依然として全容の見えない新興技術を利活用するにあたり、それを支える民間部門といかなるかたちで利害や規範をすり合わせるのか、またそのような国内的配慮と中国の不透明な開発状況がもたらすリスクをいかなるかたちで天秤にかけるのかが、今後バイデン政権が直面する一つの課題となろう。
同盟強化のためには
日本の技術管理向上が不可欠
先端技術の開発や管理は一国内で完結するものではなく、バイデン政権は今後、同盟国・友好国との協調枠組みを加速させていく。それは当然、日米同盟にも大きな影響を及ぼすだろう。
20年12月、アーミテージ元米国務副長官、ハーバード大学のナイ特別功労教授ら知日派の有識者らが発表した「アーミテージ・ナイ報告書」は、AIなどの新興技術分野にも触れており、共同開発を推進するほか、管理のための技術標準や国際規則の形成における日米協力深化の重要性を指摘した。
国際秩序形成や対中戦略の観点からすれば、こうした大方針の共有が日米双方に与える意味は大きい。しかし、日米間で好ましいルールが常に一致するとは限らない。同報告書がまさに述べる「対等なパートナーシップ」を具体化する意味でも、日本が相応の発言力を維持するための方策を練る必要があるだろう。
一つには、日本側の技術管理体制の整備である。米国にとって日本との技術協力や装備品の輸出を進めるインセンティブは高いが、機密や技術情報の流出への懸念が繰り返し指摘されている。技術協力を進めるには、規制の基準を共有し、実効性のある管理の仕組みを整えていく必要があろう。もう一つは、日本の技術力自体を高める政策形成である。独自かつ高度な技術を持つことは、米国側で協力のインセンティブを形成するだけでなく、日本側の交渉力を高めることにもつながる。
ただし、安全保障分野におけるこうした取り組みが、企業や大学といった民間部門と衝突する場面も少なくない。防衛省の研究助成をめぐり、技術の軍事転用への懸念に関する論争が示したように、日本には科学技術と安全保障の接近を嫌忌する感覚も根強く残る。民主主義国家における意思決定の問題として、対立する利害や価値観をバランスさせる難しさはあるが、少なくともいかなる決定がどのようなかたちで安全や利益を増進し、逆に誰の価値を損なうのかを議論し続け、先端技術の利用をめぐる政策や制度の形成につなげていく必要がある。
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