バイデン米大統領が2月16日、米CNN放送の政治番組『シティ・ホール』で行った発言に絡み、対中強硬派のトランプ政権から一転し、新政権は中国に対する姿勢が生ぬるいのではないかとの疑念が台湾社会に一気に広まった。
番組は司会者の質問に答える形で進み、バイデン大統領は、新型コロナウイルス対策や最低賃金制度などについて語った後、中国の習近平主席との電話会談の内容に言及。その際、台湾問題にも触れた。
大統領は電話会談で、習主席が強権的統治を行うのは、中国の価値観に基づくもので理解できると指摘。自分も米国大統領中である以上、米国の価値観に従わざるを得ないとして、中国が人権侵害を行えば、対応しないわけにはいかなくなると述べた。
台湾の一部メディアによれば、大統領はさらに「習主席が香港や新疆、台湾で行っていることを、公開の場で直接批判することはしない」と発言。メディアやSNSで「米政権は台湾を支援する気がない」との意見が飛び交った。この発言は台湾外務省の定例会見でも取り上げられたが、徐佑典・北米局長は、「バイデン氏の1カ月余りの行動を見ると、台湾の安全保障に対する承諾は引き継がれている」と反論した。
台湾メディアの情報によると、オーストラリア国立大の宋文笛講師は、バイデン氏が香港や台湾の問題で「批判しない」と述べたという台湾の報道は、英語力不足による誤解だと指摘。言葉を補って解釈すると「批判しないという考えはバカげている」となり、報道と意味が真逆となる。
宋講師によれば、バイデン氏の発言は、外交的修辞の工夫を凝らしたもの。米大統領として米国の価値観に基づき、人権侵害に対応せざるを得ないと述べたのは、中国の価値観に人権が欠けていることを暗に批判している。また、バイデン氏は「考えは」で言葉を切り、「バカげている」の部分は言葉を濁したが、習氏に意味は伝わった。全部言ってしまえば、習氏の面子が潰れてしまう。
宋講師によれば、実際のところバイデン氏の発言は、大統領選挙中に行われた過去1年間の発言とほぼ同じで新味がなく、米主流メディアはほとんど記事にしなかった。宋講師は台湾人に「米国政治家の発言に、いちいち疑心暗鬼になるな」と呼び掛けている。
だが今回の一件は、米国がどれだけ台湾に関与するつもりなのかについて、台湾社会がそれだけ注意深くバイデン政権を見ていることの証左だろう。
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