2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年4月6日

 3月26日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に、戦闘機10機、爆撃機4機を含む中国軍機合計20機が侵入した。昨年夏以来、ADIZへの侵入は度々あったが、今回の21機は最多となった。

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 これに先立つ丁度1週間前の3月19日付のTaipei Times社説は、中国の習近平共産党総書記のレトリックから窺える中国の台湾に対する軍事的脅威の深刻さを指摘し、台湾政府は国民にそのことを明確に伝えるべきだ、と警告していた。

 この社説は、中国の台湾への軍事的侵攻の可能性はますます高まりつつあり、それに対処するため、台湾当局は一層の警戒心と危機意識を持ち対抗策を講じなければならない、と警鐘を鳴らすものとなっている。

 たしかに、最近、習近平は軍に対し、「戦争準備をおさおさ怠るな」との呼びかけを頻発しており、それが、台湾への攻撃を意図したものか否か必ずしも明白ではないが、本社説の言うように台湾侵攻を意味していると見ても必ずしも間違いではないだろう。

 本社説によれば、ここ1年の間に少なくとも4回、習近平は「いかなる時においても、戦闘行為をとれるよう万全の準備を行え」と指示したという。特に、その内の1回(昨年5月)では、全人代出席の人民解放軍司令官たちに対して、「台湾独立諸勢力(Taiwan Independence Forces)」を名指しして、これらに対し軍事闘争の準備を強化せよ、と命令したという。

 興味深い指摘は、習近平がこれらの指示を出した時、中国の人民解放軍の中には「平和ボケ(peace disease:平和病)」が広がっている、と習が繰り返し発言した点である。最近の中印国境紛争も解放軍兵士たちに戦闘経験をもたせるためではなかったか、との本社説の指摘はやや穿ち過ぎの観があるが、実際に中国軍が本格的な戦争体験をしたのは1979年の中越戦争が最後である。

 バイデン政権発足以降も、中国は台湾に対し軍事的、外交的圧力を強めており、台湾海峡上空に軍用機を出動させ、また、南シナ海など台湾海峡近辺でも軍事演習を繰り返している。最近は台湾の主要農産物であるパイナップルを禁輸するなど、経済面で新たに制裁を科した。

 中国にとって台湾はあくまでも、中国自身がいう「核心的利益」の筆頭に位置しているが、蔡英文政権が主張するように、2300万人を擁する自由で民主主義の「中華民国(台湾)」は中華人民共和国の施政下に入ったことはかつてない。蔡は、台湾は主権が確立した独立国である、との立場を堅持し、中国との間で対話を通じ、現状を維持しようとしている。

 「台湾関係法」によって台湾に防御用の兵器を売却することにコミットしている米国にとっては、バイデン政権下においても台湾の重要性が全く変わらないことは、先般のブリンケン=楊潔篪のアラスカ会談からも明白である。その際、楊潔篪は、台湾を含むいくつかの問題は純粋な「内政問題」であり、中国にとって妥協の余地は全くないと言い放った。

 台湾の軍関係者たちの中には、中国がもし台湾に対し軍事攻勢をしかけるとしたら、まずは南シナ海にある台湾の実効支配する東沙諸島や太平島のような離島ではないか、そして国際社会の反応を試そうとするのではないか、という見方をする人たちが少なくない。

 なお、最近、米上院の公聴会において、米インド太平洋軍司令官に指名されたアキリーノは「中国による台湾侵攻の脅威は深刻であり、多くの人が理解しているよりも差し迫っている」との考えを示している。将来、台湾周辺海域や台湾において、軍事的に一旦「有事」が発生し、米軍(主として在日駐留米軍)が台湾防衛のために出動するという事態になったとき、日本としても米軍の行動を支援するために自衛隊を出動させるという事態になるであろうことは、岸防衛大臣がオースティン国防長官に述べたと報道されているところである。

 蔡英文政権は、かかる米国、日本の動きを歓迎しているが、今後は日米台の三者間で如何なる事態に対し、如何に協力し合うか、という類の協議をおこなうべきことが急務の課題となるものと考えられる。

  
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