2022年12月5日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年4月21日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

最近の共産党の動き

 だが、そのような政治状況を承知のうえで、敢えて最近の共産党の動きを見ておきたい。

 2月20日、習近平国家主席は党総書記として臨んだ「党史学習教育動員大会」において、「まさに今こそ、党史学習教育を全党を挙げて進めるべき時であり、それは十分に必要である」と訴えた。

 そして、「2つの百年」という奮闘すべき目標が重なり合う現時点であるからこそ、「歴史問題に関する2つの重要な決議と党中央に関わる精神」を根拠として、党の歴史的発展の主流と本質を正確に把握し、党史上の重要事件、重要会議、重要人物を正確に認識し科学的に評価すべきである――と説いたのである。

 この発言の意図を敢えて推測するなら、党総書記としての「党史解釈権掌握宣言」、いわば建党百周年を期しての“独裁宣言”に外ならないだろう。

 2021年の建党百周年と2049年の建国百周年――「2つの百年」を見据えて訴えた「正確な党史観の樹立」の狙いの先には、党の歴史をどのように総括し、現状をどのように捉え、将来への路線をどのように描くのか。そこに党史解釈権という問題が深く関係してくるはずだ。

 その典型を、100年前の1921年の建党以来の一切の党活動の功績が自らに帰するような党史を描いてみせた毛沢東に見ることができる。“正しい党史”は毛沢東に収斂し、党の正統性の根拠が示される。ここに総書記としての習近平が「歴史問題に関する2つの決議」を提示している意味があるように思う。

 共産党の歴史において、過去の路線を総括し将来の方向を定めた「歴史問題に関する重要決議」は2回採択されている。

 1945年になされた1回目では、1921年の建党以来の路線問題についての毛沢東による指導の正しさが決議された。これによって党内外における毛沢東の絶対的権威が方向づけられ、結果として個人独裁体制に突き進むことになる。

 文革が終結し、鄧小平の開放路線が緒に就いた1981年に、2回目がなされている。ここでは「中国革命における毛沢東同志の功は7分、過ちは3分」と定める一方、「毛沢東思想は党が革命の経験を総括した指導思想であり、今後も中国の指針であり、それを否定することは誤りである」とされている。

 「大後退の10年」とも形容された文革を発動し、継続し、中国に大混乱を招いた毛沢東だったが、「過ちは3分」に過ぎず、「功は7分」と評価せざるを得なかったわけだ。

 ここで興味深いのが、党史学習教育動員大会における「党中央に関わる精神」との発言である。現時点で習近平総書記以外に「党中央」は存在しないはず。ということは「歴史問題に関する2つの重要な決議と党中央に関わる精神」とは、党における価値基準を毛沢東と習近平に置くとの明確なる宣言だと考えても、強ち的外れとも思えない。

 文革時代の共産党の一元的支配に関する論議を、そのまま現状に当てはめることの当否はしばらく措くとして、馬雲のみならず巨大IT関連企業経営者に対する習近平政権の最近の動きを改めて見直した時、「時代錯誤の規制が、中国の技術革新を窒息死に追い込む」との馬雲発言が「2つの百年」が論議されている状況でなされた意味は、決して軽くはないはずだ。

 それにしても習近平政権で進む党の一元的支配の姿が、文革当時に理想として論じられたそれに重なってしまう点が、やはり気になる。偶然の一致とも思えないのだが。

  
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