チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年4月6日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 「中国の夢」について、再び考えてみたい。

 「槍杆子(てっぽう)から政権が生まれる」は毛沢東の暴力革命理論として古くから知られているが、じつは彼は「槍杆子」と同じように、時にそれ以上に「筆杆子(ペン)」、つまりメディアによるイメージ戦略を巧妙に使ったのである。

 そこで習近平国家主席が掲げる「中国の夢」だが、専ら膨張主義的側面(=槍杆子)が取り上げられるばかりで、どうにも全体像が浮かんでこない。

 彼が毛沢東を信奉しているなら「筆杆子」を駆使した宣伝戦略も模倣するだろうに――こう考え、改めて習近平政権成立前夜の中国のメディア事情を振り返ってみた。すると、中国の大国化を強く主張する著作が集中的に出版されていることに改めて気づかされた。

(Christian Ader/gettyimages)

 先ずは『大国思維 破解深蔵于大国的思維奥妙』(王宇編著、湖南人民出版社2010年)である。

 改革・開放から三十数年が過ぎ、中国は猛烈な速度で発展する。中国社会には以前とは全く異なった仕組や勢力が生まれた。対外開放における勝ち組も負け組みもいるが、大部分の中国人が中国と自らの将来に大きな自信を持ち始めた。

 この間、国際環境は比較的安定していたものの、リーマンショック以来、地球規模で金融危機に見舞われながら、世界は新しい秩序の創出に苦慮するばかりだ。

 このような世界的危機の渦中にあって、新しい秩序を希求する国際社会は中国に熱い眼差しを向ける。中国モデル、中国の責任、中国の形象が問われているのだ。ならば未来の中国は世界に対し、どのような影響を与えるべきか――

 以上のような問題提起の後、各章ごとに中国主導の新しい世界像を描き出してみせる。

 第1章:アヘン戦争敗戦以来の“自虐史観”を脱却し、弱国感情を克服せよ。

 第2章:中国はアメリカに世界経済、科学技術、国際関係の面での「3つの真の戦」を挑み、ありうべき国際的な地位を勝ち取れ。

 第3章:いまや中国は従前の「保守的思想」を克服し、他から影響を受ける「反応外交」から確固たる信念に基づいた「主動外交」に転ずるべきだ。かくして地域大国を脱し世界大国へと向かう道が拓け、「中国の心」が「世界の心」を牽引する。

 第4章:改革・開放を機に中国は富強の道を歩みだし、自らの努力で「地獄から這い出し天国に辿り着いた」。もはや安価な労働力を外国ブランドに提供する時代は終わった。「愛国」こそが「国家の利益の要」だ。軽佻浮薄な文化を一掃し、21世紀初頭を絶好機と捉えるべきだ。中国の前進を阻む国家は存在しない。他の追随を許さない先進産業技術、原潜・空母を軸とする圧倒的国防力という「大国に相応しい大目標を持て」。

 第5章:「いまや東方の大国は再び崛起し、世界の耳目を集めている」。自らが国際秩序の「ゲームのルールを定めてこそ、強大な国家となれる」。   

 第6章:西側による包囲を打ち破り、中国に対する認識を改めさせ、断固として「多極世界における“英雄国家”を目指せ」。

 かくして広大な国土、溢れる資源、強大な軍備、繁栄する経済、膨大な人口、無尽蔵の資産もさることながら、「大国に相応しい頭脳こそが最も大きな力だ」と結論づけている。

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