中国の夢と進路
中央党校は共産党の高級・中級幹部と理論家を養成するための教育機関であり、習国家主席も歴代党最高幹部に倣って同校校長を務めている。
同校で教授兼国際戦略研究所副所長の周天勇は『中国夢与中国道路』(社会科学文献出版社 2011年)で、「中国夢与中国道路(中国の夢と進路)」を次のように力説する。
中国の人口は2010年前後の13.4億人から30年後には15.5億人に増加し、中国全体の都市化は必然であり、2040年には全人口の80%に相当する12億が都市住民になる。
「中国農民のこのような都市住民への夢は、規模の大きさ、流動性の激しさにおいて世界史上空前である」とし、その先に①快適な居住環境、②充分で安定した収入、③医療・年金・貧困対策などを柱とする社会保障、④治安・教育・通信・上下水道・電気など公共サービス、⑤健康で安心・安全で人間的な生態環境を想定した。
一方、農村に残る20%の人口を「現代化過程における新村民」とし、彼らが都市住民に相当する生活環境を享受するためには、予算や対応部署も含め「世界各国の発展史上からみても空前の規模」になると考える。
「中国の夢」とは、以上のような社会環境で「自由、民主、平等、公平、公正、正義と秩序ある和諧(調和)社会において中国人1人1人が仕事し生活する」ことを実現させることであり、そのために「中国文化における力戦奮闘・刻苦勉励の伝統」が生かされるべきだ。
「中国における生活者と政府とが積み重ねてきた倹約・貯蓄の生活と理財方式」は「欧米人と欧米の政府による借款・負債・借金まみれの生活と理財方式」に較べて数段優れていることが、「欧米における金融・財政危機」のなかで明らかになった。
じつは「中国における貯蓄を基盤とする投資型の生活と理財方式こそが中国経済の高度成長を促した。最も重要な点は、膨大な人口ながら相対的に資源が不足する中国では、中国の優れた文化である節約という伝統を発揚し、簡素で快適な生活を求め、節約型の社会を建設すべきである」。
「中国自身の優れた言語文化、思考方法、思想文化、生活習慣、社会風俗、人間関係、道徳規範などの文化伝統」こそが「中国人の際立って優れた特徴であり、中華民族の団結力を保持・強化し、中華民族の21世紀における大復興を実現し、併せて長期にわたる発展へのカギである」。
『中国夢与中国道路』は、伝統を基盤にして経済的には規制緩和を進め民間活力を刺激し創業・就業機会を増大させ、徴税制度を含め政府の財政・徴税体制を改革し税収を確保し、大胆な制度改革を進め土地や国有資産の流動性と収益性を高めるなど、「中国の夢」の実現に向けての数多くの「中国道路」が大胆に提言している。
だが肝心要の政治面での「中国の夢」が具体的に示されているわけではない。
「党内民主を確実に推し進め」るなら、「活力と秩序が統一的に保たれ、自由にモノが言える和やかで統一された社会主義社会が形成される」と主張するものの、どうすれば「党内民主を確実に推し進める」ことが可能なのか。この点に関する具体策は見当たらない。
たしかに「大国に相応しい頭脳」という形容そのものが、毛沢東に冠せられた「偉大な領袖」――敢えて表現するなら「偉大な領袖」の「建国百周年の新バージョン」――を連想させるに十分だ。このように習近平政権成立を目前に控えた2010、11年にみられた論議から浮かび上がってくる「中国の夢」は、それから10年余が過ぎた建国百周年の現時点で「大国に相応しい頭脳」の強権指導の下で着実に現実化しているように思える。
であればこそ「大国に相応しい頭脳」が弄ぶ「槍杆子(てっぽう)」を封じ込めるためにも、「筆杆子(ペン)」が描き出した「中国の夢」の内実を精緻に分析し、見つけ出した綻びを突くことが急務ではないか。毛沢東の「中国の夢」を打ち砕いた原動力は、たしかニクソン政権が擁した「筆杆子」だったと記憶するが。
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