改めて中国共産党の一元的支配という問題について考えてみたい。それというのも、中国電子商取引(EC)最大手の阿里巴巴(アリババ)集団創業者である馬雲(ジャック・マー)が昨秋に「時代錯誤の規制が、中国の技術革新を窒息死に追い込む」と発言して以来、中国経済を牽引してきた巨大IT関連企業に対する習近平政権の締め付け強化が目立ちはじめたからである。
その典型が、中国の独禁法執行機関である国家市場監督管理総局が4月10日に阿里巴巴(アリババ)集団に下した判断――①市場における支配的地位の濫用禁止、②2019年の国内売り上げの4%に相当する182億2800万元(約3046億円)の罰金――だろう。
阿里巴巴の独禁法違反を「教訓」とせよ
次いで4月13日、習近平政権はIT企業34社を集め、反競争的商行為の「
たしかに阿里巴巴に象徴される巨大IT関連企業による富の独占化・寡占化がさらに進めば、格差にあえぐ国内に鬱積する「仇富」の感情が政権に対する不満へと転化しかねない。であればこそ国民感情に応えるべく“出る杭”を早々と叩いておこうというのだろう。習近平政権の思惑(予防措置?)が強く感じられる。
党の一元的支配を脅かすIT企業
だが本質的に考えれば、昨年秋以来の先端情報企業をめぐる一連の動きの根底には、党の一元的支配という共産党政権が断固として譲れない根源的命題が潜んでいる。いわば市場経済とはいえ「社会主義」の4文字が冠されているのである。ならば、利潤拡大を第一義とする経営論理に基づく私企業の“暴走”は許さない。どのように巨大な企業の経営者であれ共産党による《政治の規矩》を超えてはならない、ということではなかろうか。
文化大革命期には党の一元的支配に関する多数の関連書籍が出版されているが、試しに『加強党的一元化領導』(上海人民出版社 1974年)を取り上げてみたい。
表紙を繰って最初に目に飛び込んでくるのが、「労働者、農民、商人、学生、兵士、政府、党の7つの部門において、党こそが一切を領導する」との『毛主席語録』からの引用である。「党こそが一切を領導する」とは、「党」が「労働者、農民、商人、学生、兵士、政府」の上に君臨し、有無を言わさずに一切を教え導くことだろう。
この本の行間には文革期特有の昂揚感が迸り、次々に激越な調子の主張が飛び出す。
――党の「一元化された領導」が必要不可欠であるわけは、それこそがプロレタリア階級の革命を勝利に導くうえでの極めて重要なカギを握っているからである。かくて「なにが党の領導を利し、なにが逸脱・弱体化させるかを明確に弁別し、党の一元化された領導を維持し強化するべく自覚性を不断に高め、共産党員が持つ先鋒模範という役割を十二分に体現し、党組織が具えるプロレタリアの先鋒隊としての核心的働きを発揮し、〔中略〕毛主席の革命路線に沿って、プロレタリア階級の革命を徹底的に進めよう!」――
以上の勇ましい総論に沿って各論が続く。それを敢えて個条書きに要約すると、
- 党の一元化された領導は、党の各レベルで正確な思想と政治路線を徹底的に貫徹させることによって実現される。組織内では、横の関係による内部闘争は許されない。上下の関係では下部は上部機関に服従し、「全党は中央に服従しなければならない。この我が党の伝統は、断固として維持されなければならない」。
- 党の一元化された領導を強化するためには、「階級闘争であり、路線問題である」ところの全体状況を注意深く把握しなければならない。
- 党の一元化された領導を強化するためには、党における民主集中制を断固として真剣に推し進めなければならない。それが党の一元化された領導を保全する。党の決定を実行し、党内各レベルで推進するという原則に従うことで、党と他の組織との関係を正しく処理できる。集中指導に基づいた民主生活を励行することで、党内の上下関係を正しく処理できる。大衆路線を堅持してこそ、党の領導と大衆の関係を正しく処理できる。
- 毛沢東の説く「三要三不要(マルクス主義・団結・公明正大は必要。修正主義・分裂・陰謀詭計は不要)」を党革命化への基準とし、「三大革命闘争(生産闘争、階級闘争、科学実験)」の実践を緊密に結びつけ、「断固として毛主席の革命路線を執行・防衛すべし」。
――これを要するに党の一元化された領導とは「党中央(=最高権力者)」に従うことであり、「党における民主集中制」とは上意下達の徹底を意味すると読み取ることができるだろう。