2024年4月27日(土)

Washington Files

2021年5月17日

現実逃避を続ける共和党

 とくに共和党にとっては、近未来はきわめて厳しい状況が待ち受けている。

 その理由として政治メディア「Axios」は①2000年以来の国勢調査の結果、全米人口に占めるヒスパニック系米国人のシェアが50州の全州において増加してきた②ヒスパニック系人口はすでにフロリダ州全体の4分の1、アリゾナ州の3分の1、テキサス州の39%を占めており、民主党に有利になりつつある③2020年大統領選でトランプが勝利したフロリダ、テキサス両州では非白人人口が最も早いスピードで増加しつつある―などを挙げている。

 このほか、2022年中にも全米の18歳以下の人口のうち非白人が多数となるほか、10年以内に30歳以下の人口のうち非白人が多数となることなどから、若年層間での支持が多い民主党にとって政治マップは一段と有利になるとみられている。

 65歳以上の高齢層についても、20世紀半ばから伝統的に支持を伸ばしてきた共和党だが、2020年大統領選では初めてバイデン民主党候補に対する支持が上回った。高齢層の共和党離れが始まりつつある要因として①所得格差拡大のしわ寄せ②民主党が重点を置く医療・福祉政策に対する認識の高まり③民主党支持の多いベビーブーマー世代の高齢化―などのトレンドが指摘されている。

 こうしたことから、共和党主流の間では、早くから旧来型の保守系白人層依存体質からの脱皮を求める声が高まりつつあった。

 たとえば、司令塔の「共和党全国委員会」(RNC)はすでに、2013年3月、「成長と機会プロジェクト」と題する緊急報告を発表した。同報告書は、前年2012年大統領選で共和党が敗退し、オバマ民主党大統領の再選を許した苦い経験から、党再建のための大胆な青写真を描いたもので、別名“共和党解体レポート”とも称された。

 その中で、以下のような点が強調された:

  1. これまでのようなわが党の反移民的なスタンスを廃し、「包括的移民政策」を受容すべきである。
  2. 党としての改革を怠ってきた結果、若年有権者の離反が進み、このままではわが党は社会の主流から取り残されかねず、若年層の主張により真剣に耳を傾けるべきである。
  3. 同性愛問題、妊娠中絶、弱者救済などに対しては党内でも世代間で見解に断絶があり、これまで以上に柔軟な姿勢に転換すべき時が来ている。

 しかし、こうした共和党主流の主張は、2016年大統領選で同党大統領候補に正式指名されたトランプ氏の人種差別的な特異なポピュリズム(大衆迎合主義)にかき消され、トランプ政権発足後は、移民制限措置、同盟諸国との関係を犠牲にした排外主義、地球温暖化対策のための「パリ協定」離脱など、より偏狭な立場にシフトしていくことになった。

 中長期的なアメリカ社会における人口動態トレンドを無視するかのようなその後の共和党の姿について、有力誌「The New Yorker」(3月8日付)は「共和党は新たに台頭しつつある有権者層から遠ざかり、1960年代まで顕著だった南部人種差別主義を想起させるような政治戦術を復活させつつある」とした上で、さらに次のように結論づけている:

 「2016年大統領選でトランプはヒスパニック票をわずかながら挽回したものの、マイノリティ有権者層全体はその後も圧倒的に民主党傾斜を続けている。2020年大統領選では、男女間の支持ギャップが一段と明確になり、バイデンが女性票の57%を獲得したのに対し、トランプは42%にとどまった。共和党の支持基盤だった白人主体の保守主義的キリスト教信者は2007年までは39州で多数派を占めていたが、今日、18州以下に縮小した。1996年時点で全米有権者の85%を占めていた白人層は2018年には67%と着実に後退した。このままいけば、いずれ共和党は“万年少数党permanent minority party”になる運命にある」

 共和党が、こうした近未来に立ちはだかるハンディキャップをよそに、劣勢挽回の“窮余の一策”として最近打ち出したのが、当面の選挙を有利に戦うための各州における投票制度改革にほかならない。この動きに対し、民主党は、黒人、ヒスパニック有権者が投票しにくくなるような、マイノリティ人口の多い選挙区内の投票所数の削減、不在者投票の規制と厳格化などからなる「歴史的な投票制度改悪だ」として、法的闘争含め、徹底抗戦の構えを見せている。

 いまだに“トランピズムの呪縛”から抜け出せない共和党の暴走ぶりに、国民の大半がさじを投げた格好だ。

  
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