経済の常識 VS 政策の非常識

2021年6月11日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

中国のワクチン外交はいかに

 自衛隊の東京会場では、予約がなかなか埋まらなくなっている。多くの人が不思議だというが、私はワクチンが余ってくることを示しているものだと思う。余って予約が埋まらなくなってくれば、若者に打てば良いし、場合によっては接種券がなくても本人確認書類だけで打っても良い。

 ワクチン嫌いの人はいて、「コロナワクチンに関する意識調査」(リーディングテック)によれば、62.8%の人は接種を希望するが、37.3%の人は希望しないとなっている。海外の例を見ても、人口の6割に達したイスラエルは新規の接種数が激減している。イギリスもアメリカもそうである(未成年は接種しないので全人口に対する比率は6割でも成人人口に対する比率は8割)。日本はファイザー7200万人分、モデルナ2500万人分、アストラゼネカ6,000万人分、95%の有効率があるファイザーとモデルナで9700万人分を確保している。日本の18歳以上人口は1億756万人、8割の人がするとすれば8600万人分のワクチンがあればよい。5%を無駄にしても9,215万人(9,700×0.95)に打てる。

 ごくわずかだが血栓のできる可能性があり、有効率が7割と言われているアストラゼネカのワクチンはもう余ることが分かっている。アストラゼネカのワクチンは、イギリスや大陸欧州諸国、韓国など71か国で接種しているから問題はないと私は思う(ファイザー社製は72か国。「EU主要国、アストラゼネカ製ワクチン接種を再開へ」BBC|Japan 2021年3月19日)。

 政府は、6月4日、まず台湾に124万回分を提供した。今後さらにベトナムやマレーシアにも供与するとのことである。

 これはまた、中国のワクチン外交も今年までだ、ということである。私は、中国のワクチンよりアストラゼネカのワクチンを打ちたい。アストラゼネカのワクチンは日本で製造している。ライセンス料さえ払えばいくらでも製造することができるだろう。ファイザーもモデルナも、高く売れる先進国に売った後は、安くても途上国にたくさん売りたいはずである。

 中国がワクチンを海外に配布できることが、共産主義体制の勝利を示すものだという中国の自己宣伝を信じる人が日本にもいることは残念だが、仮に勝利であるとしても、それは短期的なものにすぎない。1年で自由主義体制下の製薬企業が大量生産できる。

 中進国は自分で購入して、貧しい国は日本を含む先進国が援助すればよい。ファイザーとモデルナの95%の有効率という、感染症学者にも思いもよらないほどの高い効果を持つメッセンジャーRNAワクチンを発明し大量供給できることこそ、短期的に旗色が悪くなることはあっても、長期的には(といってもせいぜい1年間の遅れに過ぎないのだが)、人々の自由な試みを賞讃する自由主義体制が勝利することの実例である。

  
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