経済の常識 VS 政策の非常識

2021年6月11日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

自衛隊によるワクチン大規模接種会場(アフロ)

 自衛隊のワクチン接種予約システムで接種券に適当な番号を入れても受付できることが批判された。アエラドットが5月17日、予約サイトで、接種券に記載されている6ケタの市区町村コードと10ケタの接種券番号、さらに自分の生年月日すべてを、適当に入力しても予約できるようになっている、つまり、接種券を持っていなくても、簡単に予約できてしまうと「欠陥」を指摘する報道を行った。毎日新聞や日経クロステックも同様の問題を報じた。しかし、これは欠陥だろうか。

 自衛隊が、なぜそういうソフトを作ったかというと、元データに照合していたら間に合わないからだ。市区町村の予約システムは独自のもので、そんなものに合わせて連携するソフトを作っていたらいつまでたってもできない。

 会場では接種券がないと受けられないので、でたらめに予約した人が実際に接種できることはない。悪意のある人、愉快犯が大量に予約をしてキャンセルを続出させれば困るだろうが、今のところキャンセルは十数%のようである(そのうち悪意のものがどれだけあるかは分からない)。市区町村の独自システムに合わせて自衛隊が予約システムを作ることによって接種が遅れることと、わずかにキャンセルが増えるかもしれないこととどちらが問題だろうか。

 なお、自衛隊のソフトで予約したものが消えてしまう、2回目の接種予約を取ろうとしたら通信障害があったというトラブルもあった(どちらも一時的なトラブル)。本稿の目的ではないので、これらは正しくなかった、とだけ書いておく。

 また、自衛隊が運営する大規模接種会場で新型コロナウイルスワクチンの注射を受けた人が、自治体の接種予約をキャンセルしていない「二重予約」が起きているという問題もある(読売新聞オンライン2021/05/27)。こちらは自分でキャンセルしてもらわないといけない。

大事なのはたくさん打つこと

 戦争で大事なことは大局を見ることである。私は、戦争に詳しい訳ではないが、戦争映画では、敵の現場指揮官などを射殺する狙撃兵は、敵の指揮系統を混乱させ士気を挫くために重要らしい。狙撃兵のもつ銃は何百メートル先からピンポイントで狙える銃だが、普通の兵士の持つ銃は命中率は低いが手間がかからず故障しない銃だ。そもそもワクチンを打つのに、それほどピンポイントで打つ必要があるのだろうか。

 なぜ、医療関係者や高齢者に優先的に打つ必要があるかと言えば、前者は感染者に接触する可能性が高く、かつ、彼らが感染すれば医療が崩壊してしまうからだ。高齢者を優先するのは、感染すれば重症化する確率が高いからだ。だから、ほとんどの国で医療関係者、高齢者を優先している。しかし、感染を広げる可能性の高い人に優先して接種すれば感染を早く抑えられるという説もある。新宿区は、本年7月7日から行動範囲が広いとされる20代から30代の若者を対象に、優先的に集団接種の予約を始めるという(「64歳以下ワクチン接種 新宿区は若者から優先的に集団接種」NHK首都圏NEWS WEB、2021年6月3日)。 

 こう考えると、自衛隊の接種会場のある都心の大手町まで接種を受けにくる高齢者は元気な高齢者に違いなく、おそらく感染を広げる可能性も高い高齢者だ。このような高齢者に先に接種するのは一石二鳥の妙案だ。

 つまりは、コロナとの戦いでは、たくさん打つことが重要で、狙撃兵がピンポイントでゆっくり狙って打つようなものではない。自衛隊のソフトは、コロナとの戦争の大局を理解した正しい戦い方に則ったもので、批判は大局を理解していない。

 ワクチンは1回分たりとも無駄にするな、優先順位を厳密に守れという言論が広がるのはワクチンが足りないからだ。インフルエンザワクチンなどは毎年5%以上を無駄にしている。だからと言って、インフルエンザワクチンを1回分たりとも無駄にするな、などという言説を聞いたことがない。

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