「もはや欧米の批判に聞く耳を持たない」
と言われるプーチン
とはいえ、モスクワの国際安全保障研究所のアレクセイ・アルバトフ所長は、ロシアの関心は欧州からアジアに移っており、もはや欧米からの批判すら聞く耳を持たなくなっていると発言しているほどだ。
プーチンの大統領再登板への動きやロシア下院選挙の結果を受け、2011年12月からロシアで繰り広げられた反プーチン抗議デモに際しても、プーチンは常々それらは、米国務省の指令で行われているものだと主張してきた(拙稿「ロシア下院選挙 ―― プーチンに国民がつきつけた『ノー』」)。さらに、今年の2月26日の抗議行動に際しては、プーチンはロシアと外国の間の闘争が深化しているとし、ロシアは決して内政干渉を許さず、戦い続けて勝利するとまで言明した。同時に、軍備の近代化とロシアの安全保障の充実の意向についても再三言及している。
米国の新大統領が誰であっても
悪化するであろう米ロ関係
そのような中で、気になるのが11月6日予定されている米国大統領選挙の結果である。米国大統領選挙といえば、世界からの注目が集まるのが常だが、国際政治のライバル的存在であるロシアにとっても、その帰趨は極めて重要な意味を持つ。
選挙直前の現在でも、現職のバラク・オバマ氏と対立候補のミット・ロムニー氏の接戦が報じられているが、プーチンは明らかに、ロムニー氏よりオバマ氏の当選を望んでいると言われている。たとえば、9月のAPEC大会の直前にも「オバマ氏はとても正直な人だ」と称賛していたが、ロムニーに対しては冷ややかな評価しかしてきていない。
他方で、大統領がどちらになろうと、イランやシリア、そして欧州ミサイル防衛計画など、オバマ氏がロシアに対して進めた「リセット政策」の中でも両国間の溝が深まっていった諸問題も依然として重くのしかかっている。こうした中で、今後の米ロ関係は悪化していくという見方が圧倒的だった。
しかも、それは、米国の政策ではなく、むしろロシアの国内政策に起因するという。その最たるものが、本稿で中心的に扱ったプーチンの愛国主義的政策であるが、その他にも最近、多くの反欧米的ともいえる動きがあったことも既に述べた。
米国大統領が誰であろうと、ロシアの「愛国主義」的政策が、米国にとって「厄介なもの」であることは間違いないといえるだろう。ロシアが目指す強いロシアや軍拡路線、そして欧米的価値観の排除は、米国が推進したい外交方針と相反するものだ。
しかし、このロシアの愛国主義傾向がもたらす影響は日本にとっても他人事ではない。愛国主義は領土への愛着と表裏一体であるといえる。ロシアで愛国主義が強まれば、ロシアの一般大衆の北方領土問題への態度も硬化するのは間違いない。内政が外交に影響をもたらすのは確実であり、日本はロシアの内政動向や国民の意識などにも注目して臨機応変な外交政策を策定していく必要があるだろう。
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。