国家反逆罪の定義拡大
共産主義時代の再来か
そして、極めて由々しいことに、10月23日には、国家反逆罪の定義を拡大する法案が下院を通過した。これも、プーチン氏が進める反体制派の弾圧を容易にするために進めている法整備の一つである。この拡大により、国家機密を漏らすだけでなく、国家機密を入手、放送、または公表しても違法となることになった。「微妙な情報」を外国の政府のみならず、国際機関などに話しても犯罪となるという。これまでは、検察官は「敵意」を証明する必要があったが、その基準が極めて簡素化し、国家の安全に対する脅威を証明するだけで良くなってしまった。
しかし、この法案は極めて恐ろしい可能性を持っている。何故なら、どんな情報が危険、ないし「微妙」なのかは一般人にはわからない上に、自分の意図せぬ間に、勝手にスパイや反逆者に仕立て上げられる可能性があるからだ。政府が煙たい人物を排除する理由付けにも大いに使われそうだ。これではまるで共産主義時代の再来である。
反欧米的な動向も増加
そのような動向は、反欧米的な動きにも現れている。
たとえば、9月27日にはロシア連邦議会下院国家会議議長のセルゲイ・ナルイシキン氏が、10月1~5日にストラスブルグで行われた欧州評議会の議会会議への欠席を急遽発表したのだ。彼は主要な演説をする予定だったが、「反露的代表団は彼の鍵となる戦略的提案を聞かないだろう」とし、それを欠席理由とした。だが本当のところは、逆に、人権、多元的民主主義、法の統治などを尊重するという欧州評議会のメンバーが共有しているはずの原則を聞かされたくなかったからだという見方が大勢である。
ナルイシキン氏のキャンセル事件の前には、プーチン政権が約20年間続いてきた米国国際開発庁(U.S. Agency for International Development: USAID)との協働をやめ、USAIDをロシアから追い出すという出来事もあった。USAIDは、そのロシアにおける年間5千万ドルの予算の60%最近のロシア議会選挙、大統領選挙における不正を明らかにした団体「ゴロス」などを含む人権団体や市民社会プログラムを支援するためにつぎ込んで来た。何故なら、ロシアにおいては他にそのような団体の資金源はなく、彼らの活動が極めて困難だからだ。
ただし、USAIDをロシアから排除したプーチンの決定については、擁護の声もある。たとえば「Voice of Russia」のジョン・ローブルスは、USAIDは長年CIAの隠れ蓑として位置づけられてきた組織であり、「純粋な人権団体」からはほど遠い代物であり、ロシアの内政に影響を及ぼすことを意図してきたとして、プーチンの決断を当然のことだと評価している。