サンクトペテルブルグは欧州に近く、比較的開かれた文化的都市だったが、「愛国主義と道徳」教育のテストケースにされてしまったかのようだ。
ロシア正教をも利用するプーチン
「保守化」は他の都市でも見られる。たとえば、南部クラスノダール地方の知事は、警察の予備部隊としてコサック・パトロール隊を配備し、秩序の維持を強化すると発表したが、愛国主義者としてのアピールとも見られている。プーチン氏は、9月にクラスノダールを訪問し、大統領の士官候補生学校を見学し、さらに統治の高官と文化人との愛国心についての円卓論議を行なっており、それが知事の決定の背景にもあるといえる。
そして、プーチン氏の愛国主義はロシア正教の鼓舞にも結びついている。プーチン氏は大統領復帰後、ロシア正教の価値について度々言及するようになったが、それが現在、内外から多くの批判を受けている「プッシー・ライオット」事件にも結びついているといえる。
女性パンクロック・グループ「プッシー・ライオット」がモスクワの救世主ハリストス大聖堂で反・プーチンの抗議パフォーマンスをしたために「宗教的動機に基づく嫌悪」を理由に投獄され、実刑判決を受けた(3人のうち、1人は釈放)事件。だが、これはロシア正教を隠れ蓑に、「見せしめ」を行ったに過ぎない。プーチン氏はロシア正教を政治的に利用したいだけなのである。
抗議行動への法外な罰金 ウェブサイトの閉鎖…
弾圧的法律の増加
その証拠に、最近、国民を弾圧する法律が下院によって続々と承認されている。
6月には、「不許可の抗議行動」を犯罪とみなし、行動の組織者に法外な罰金を科す法案が承認され、7月には、「国民に有害と判断したウェブサイトを閉鎖する」権限を政府に与える法案が承認された。
また、「非政府組織の登録に関する法律」は、外国の資金援助を受けて「政治活動」を行う組織はすべて「外国のエージェント」として登録することを義務付けるように変更された。外国からの資金援助を得れば、外国のエージェントとされてしまうのであるから、NGOなどの活動は極めてしづらくなり、特に、反政府的団体や人権団体は手足をもがれたと言って良い。
さらに、下院は「ロシア国民の宗教感情の保護」に関する法案を審議している。これは神に対する冒涜を犯罪とみなし、実刑判決を可能にする内容を含んでおり、「冒涜」の判定には、ロシア正教に近い人物が採用されると見られている。この冒涜禁止法は、政府と協力して愛国主義を支える教会の活動を支えるキリル総主教への贈り物ともいわれているが、前述の「プッシー・ライオット」問題の正当化にも寄与するだろう。