海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年7月27日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

「今、まさにある脅威」とは?

 バイデン大統領は7月8日、アフガニスタン駐留米軍撤退を8月31日までに完了すると述べました。その主たる理由として、01年9月11日に発生した米同時多発テロ事件の首謀者で国際テロ組織「アルカイダ」の元指導者オサマ・ビンラディン容疑者を探し出したこと、アルカイダから米本土への攻撃の脅威を取り除いたことの2点を挙げました。

 そのうえで、バイデン氏は「今、まさにある脅威に対処しなければならない」と述べ、中国との競争、新型コロナウイルス、サイバー空間並びに気候変動について言及しました。「次の世界的な感染病拡大に備える必要がある」とも語りました。国内外の「民主主義が直面している危機」については触れませんでしたが、バイデン氏にとって共和党主導の州議会で制定された「投票抑制法」や、専制主義の台頭も今まさにある脅威であることは確かです。

 つまり、アフガン戦争はもはや差し迫った脅威ではないと言いたいのです。

 さらに、バイデン大統領は「20年前に両親がアフガニスタンで戦った兵士がいる。あなたは自分の子どもや孫を(アフガニスタンに)送りたいか。自分の息子や娘を送りたいか」と問いかけ、米国民の感情に訴えかけました。「3代、4代にわたってアフガン戦争に関わりたいのか」というメッセージを発信したのです。

 アフガン戦争では2448人の米兵が戦死し、2万722人が負傷しました。そして何千人もの兵士が精神的な障害を起こしています。バイデン氏は米国民の心に響く演説を行いました。

バイデンのクレジット(手柄)

 モーニング・コンサルトと米国の政治ニュースサイト「ポリティコ」の共同世論調査(21年7月9~12日実施)によれば、今年8月31日までのアフガニスタン駐留米軍撤退に関して59%が賛成、25%が反対と回答しました。賛成が反対を34ポイントも上回りました。

 党派別にみると、民主党支持者の76%、無党派層の59%が賛成と答えました。一方、共和党支持者は42%が賛成、43%が反対で拮抗しました。

 20年米大統領選挙ではトランプ前大統領は、アフガニスタン駐留米軍撤退を訴えました。一方、バイデン候補(当時)はトランプ氏の撤退計画を支持しました。

 トランプ政権はアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンと交渉し、今年5月までの米軍全面撤退で合意していました。本来ならば、アフガニスタン駐留米軍撤退はトランプ氏のクレジットになるはずでした。

 ところが、約20年に及ぶ米国史上最長の戦争であるアフガン戦争に終止符を打つのはバイデン大統領になります。同大統領の手柄になる訳です。

 22年中間選挙並びに24年大統領選挙においてバイデン氏は、内政では中間層の票を狙って「子ども減税」、外交では一部の共和党支持者の票獲得を目指してアフガニスタン駐留米軍撤退をアピールするでしょう。

  
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