2024年12月22日(日)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年7月9日

7日、ニュージャージー州にある自身のゴルフ場で演説をするトランプ前大統領(AP/AFLO)

 今回のテーマは、「トランプ・オーガニゼーション起訴とトランプの反撃」です。ニューヨークのマンハッタン地区検事事務所はトランプ一族が経営する「トランプ・オーガニゼーション」と、アレン・ワイセルバーグ最高財務責任者(CFO)を7月1日、脱税容疑で起訴しました。

 果たしてトランプ・オーガニゼーションとワイセルバーグ被告による組織的な脱税が行われていたのでしょうか。ドナルド・トランプ前大統領はそれに関与していたのでしょうか。また、トランプ氏は脱税容疑に関してどのような反撃をしたのでしょうか。本稿では、トランプ氏の反撃の仕方を分析した後で、22年中間選挙と24年大統領選挙への影響について述べます。

「組織ぐるみ」か?トランプは関与していたのか?

 ワイセルバーグ被告はトランプ・オーガニゼーションからアパートの家賃、車のリース代及び孫の私立校の学費を含んだ手当を受け取っていましたが、これらを納税申告していませんでした。合計で170万ドル(約1億1800万円)の脱税になります。同被告は1973年からトランプ前大統領の父親フレッド・トランプ氏に仕えてきた「大番頭」で「金庫番」でもあり、トランプ・オーガニゼーションの「キーパーソン」です。

 ニューヨークマンハッタン区地検のサイラス・バンス・ジュニア検事(民主党)とニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェイムズ氏は、ドナルド・トランプ前大統領の納税記録を入手しています。トランプ・オーガニゼーションとワイセルバーグ被告による15年間の入念な脱税計画を立証できれば、「組織ぐるみ」で行われていたことになり、今後トランプ・オーガニゼーションの他の幹部まで起訴される可能性が出てきます。

 米ABCニュースのベテラン記者ジョナサン・カール氏は、ワイセルバーグ被告の給与以外の手当に関する小切手に、トランプ前大統領の署名が入っていたと報道しました。トランプ氏が「犯罪」を認識し、関与しいていた疑いが浮上しています。

「トランプ流」論点のすり替え

 トランプ前大統領は7月3日、南部フロリダ州で支持者を集めた大規模集会を開き、早速反撃に出ました。「社用車の税金を払っていなかったために、善良で一生懸命働いている人々を捜査している」と語気を強めて、バンス検事とジェイムズニューヨーク州司法長官を非難しました。

 続けて、「皆さんは社用車や社宅や孫の教育費に関して税金を払いませんよね。少なくとも私は払うべきだとは思っていない。誰か答えを知っていますか?」と支持者に疑問を投げかけました。

 このトランプ氏の発言について、米ABCニュースの看板記者であるマーサ・ラダッツ氏は、「トランプ氏は税金を払わなかったことを認めているように聞こえる」とコメントをしました。

 トランプ氏は同集会で、「殺人や人身売買では起訴されないが、フリンジ・ベネフィット(fringe benefit:賃金・給与以外に提供する経済的利益)では起訴される。不公平だ」と支持者に強く訴えました。バンス氏やジェイムズ氏は、殺人者や人身売買の犯罪者を起訴しないで、会社からフリンジ・ベネフィットを与えられた従業員を起訴するのは「不公平」であるという議論をしたのです。

 そもそも社用車、アパートの家賃及び車のリース代を納税申告したかが論点です。しかし、トランプ前大統領はワイセルバーグ氏と殺人者を比較して、論点を「不公平」にすり替えました。


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